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「ここか」
野木の下手くそな字で書かれたメモをナビに打ち込んで辿り着いたのは小綺麗なワンルームマンションだった。
卵を届けるだけだから5分もかからないので2台並んだ自販機の前に車を止めさせて貰い、エンジンを切った。
系列店まで取りに行ってきた卵を手にエレベーターの鏡を覗き込むと、くたびれ果てた表情の自分と目が合った。
「くそ野木め。明日覚えとけよ」
この疲れた顔も、今日の仕事が終わらなかったのもどれもこれも野木の所為だ。
(1つ目……2つ目……ここか)
ネクタイの位置を直してチャイムを鳴らした直後にドアが開いてギョッとする。
「あ、すみません」
「すみません」
お互い何となく謝りあって顔を見ると倫祢とそう変わらない年の青年だった。
卵を渡すと青年は大事そうに受け取って「わざわざすみません」と丁寧に頭を下げた。
倫祢より高いところにある顔からは、生まれてこの方怒ったことなどありませんといった穏やかさが滲み出している。
三日月を横に寝かしたような目の上に乗っているのはハの字に垂れた眉。
とても卵を家まで持って来いなどというような人物ではないので、どうせ野木が勝手に話を進めたに違いない。
何ゆえに赤い卵では駄目なのか気になってはいたが、それを聞くのも億劫なほど疲れきっていたのでそのまま一礼して帰ろうとすると何故か呼び止められた。
「あの……」
「はい?」
「あの……倫祢さんですよね?」
何故この男が名前を知っている?
自店の社員ではないから名前を知っている可能性があるのは他店か取引先か……。
しかし、店の関係者がこんなわけのわからない問題を持ち込むわけがない。
職場関係以外だとして記憶の糸口を辿ろうにも全く手がかりがなかった。
こうなればもう本人に直接聞くのが手っ取り早い。
「すみません……以前にどこかで」
倫祢が覚えていなかったことに男は一瞬落胆したような表情を浮かべたが、すぐに元の柔和な笑みを取り戻した。
「覚えてませんか? カトリック幼稚園で一緒だった」
(幼稚園だぁ?)
幼稚園に通っていたのなんて20年近くも前のことだ。
そんな昔のことを覚えているこの男の記憶力は特別優れているのだろうが、生憎自分の記憶力は並標準だ。
「敬典です。一緒にイースターエッグ食べちゃって怒られた」
「ああ!」
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