アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4-4
-
「教会辞めるんだ?」
まだるっこしい事は苦手な倫祢なので、敬典が帰ってくるや否や、プリントを突き付けた。
「お行儀悪いですよ」
敬典は怒るでもなくいつもの穏やかな口調で倫祢をたしなめ、プリントをクリアファイルに戻した。
「……あの日の事か」
「さあ」
神父を志す人間にとって一夜の過ちというものは決定的な汚点となる。
「何で飲んだの? 飲まなきゃあんなことにならなかったのに」
「何ででしょうね」
敬典は穏やかな空気を微塵も崩すことなく、買って来たフィレオフィッシュをテーブルの上に取り出して行く。
酔うとどうなるかわかってあの日ワインを飲み干した敬典の心理が解せなかった。
「これが俺の人生なのかなーって思って」
いつか見た覚えのある嘘くさい笑顔を貼り付けて敬典は「冷めますよ」とフィレオフィッシュを倫祢の手に押し込んだ。
食事をしながらも手を変え品を変え敬典を執拗に追い詰めるが、のらりくらりと逃げられる。
度重なる倫祢の追求に流石の温厚な敬典も堪忍袋の尾を切らした。
「自分の人生を棒に振ってまで抱きたい相手。そんなの好きな人以外に有り得ないでしょう」
「はぁっ?」
問い)
(酔うとキス魔になる敬典+男もイケる倫祢)×酒=□
その数式の空欄に入る答えは明白だ。
「どうしてどんな結末になるか分かっていて飲んだかですか? 貴方が好きだからに決まってるでしょう」
「はぁぁっ?」
「好きだったんですよ、ずっと」
幼少期を共に過ごした倫祢はいつしか姿を消してしまった。
綺麗な記憶のまま終焉を迎えた片想いほど厄介なものはない。
時間が全てを解決するなんて大嘘だ。
時が経つことで忘れるどころか年を重ねるごとに記憶の中の思い人はますます美化されてゆく。
「自分の祈りで大事な人を守ることができたら。どんなに遠く離れていても神様が思いを届けてくれたら」
好きな人を想って祈る事が、敬典にとっての信仰だった。
「俺と付き合うのは嫌ですか?」
「え? え?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 19