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次の日──。
街の広場は今日も人々の往来で賑わっていた。
「おはよう、幸せの王子様。行ってきまーす!」
「幸せの王子様、いつもながらなんて麗しいお姿でしょう」
「いやー、まったくだ。王子様はこの街の誇りだよ!」
町民たちは皆それぞれの生活に忙しく、学校や仕事場へと足早に急いでいたが、街のシンボルである「幸せの王子様」の前を通る時だけは誰もがその顔を満足そうに綻ばせるのだった。
やがて日が傾いて人々の往来が一段落すると、王子様の肩から一羽のツバメが姿を現した。
ツバメは王子様の頬をそっと撫でるような仕草を見せると、スッと灰色の空に向かって飛び立っていった。
その様子をちょうど見ていた恰幅のよいパン屋の店主が「おやおや」と驚き顔で呟いていた。
「もうすぐ冬だっていうのにツバメが街を飛ぶなんて珍しいこともあるもんだ。仲間とはぐれちまったのかな......?」
・・・・・
ソウゲツは海の香りいっぱいの港に降り立つと、そこで簡単な食事をすませた。革靴を磨き、長い燕尾を整えると、再び王子様のいる街の広場へと戻っていく。
旅立ちの挨拶をするためだ。
「ほらな、ちゃんと戻ってきただろう? 支度がすんだよ。幸せの王子様」
「ソウゲツ......」
そうやって名前を呟いた王子様の顔は、涙こそ見せないものの、とても悲しげだった。
最後はぜひ、あの天使のような笑顔が見たかったのだが。
「君のおかげで夕べはぐっすり眠れたよ。短い間だったがお世話になったな。私は今からエジプトに……ああ、そんな顔をしてはいけません。春になったらまた会いに来ますから」
そう、なにもこれが一生のお別れという訳ではないのだ。いっそう寒さが厳しくなる中、これ以上の長居ができないだけだ。
後ろ髪を引かれる思いで「えい」と飛び立つと、その背中にしがみつくように必死の声がかけられた。
「ソウゲツ、ソウゲツ、待って!」
少年の懇願に、男はどうしても振り返ってしまう。
「その前にあと1つ僕の頼みを聞いて欲しいの。お願い......あなたにしか頼めないんだ」
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