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どんな表情をしているかまでは想像の域を超えないが、きっと瞳のない自分の姿を見て悲しんでいるに違いない。
「ソウゲツ、あの子を助けてくれてありがとう。あなたには感謝してもしきれない。言葉にできないくらい、本当に……。さあ、僕はもう大丈夫。あなたは少しでも早くエジプトに飛んでくれ」
それは命を削るようにして頼みをきいてくれた恋人に、王子様がかけられる精一杯の言葉だった。
しかし一刻を争うように飛び立っていくのかと思いきや、当のソウゲツは少年の左肩にとまったまま、ゆったりと羽を休めてしまうのだった。
「私はエジプトには行きません」
「え……?」
王子様は耳を疑った。
「ソウゲツ、何を言ってるの?」
「これでもう君は何も見えなくなった。だからずっとここにいます」
「そ、そんなのダメに決まってるだろ! 僕のことなんて考えないで。んもう、いいから早く行ってくれ! お願いだからっ!」
王子様は必死に叫んだ。
それこそなりふり構わずに叫んだ。
この街にはもう冬が来ている。さっきこの頬に触れた指だって、まるで氷のように冷たかったではないか。
すると、火照った顔のすぐ側で彼の優しい声が「王子様」と囁くのが聞こえた。
「覚悟していたんだ。ここに戻ると決めた時から。君と、君が愛するこの街が好きだ。もう離れない。私はここで君の目となって生きます」
──この時の出来事を、僕は生涯忘れることはないだろう。
あれから様々な感情が押し寄せてきて、どうしていいのか分からずに子供のようにわんわんと泣きはじめた僕を、ソウゲツは大きな翼を広げてなだめてくれた。
冷えきった手の平でおでこを撫でて、さっき瞳をあげた女の子の話を聞かせてくれた。
「いいことをしたな」って誉めてくれた。
僕は心臓が張り裂けてしまうかと思った。
あなたがずっとここにいると言った時、僕はあなたと出会ってしまったことを心の底から後悔したけど
心の底から幸せだった……。
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