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偶然のできごと
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傷だらけの彼を背負い歩く悠だが、自分の寮の部屋が分からず途方に足を進めていく
自分で彼を手当てするつもりな事に変わりはないが、現実的にそれが可能な状況ではない
早くしないと、彼が辛いだけだ...
その一心で道を行く悠の視界に、ダンボールを運び込む作業着姿の男性の姿が映る
見覚えのあるそれは悠が荷物を詰めたダンボールだった
俺のを運んでるのか...?
だとしたら、ついていけば分かるはず...!
悠は作業を進める中年の作業着の男に声をかけた
「あの、それってどこの部屋に運んでるんですか?」
「ん?これはねぇ...えーっと」
そう言いながらポケットから小さな紙を取り出す
「これはね、寮のA棟 203号室、瀬戸さんの部屋だ」
やっぱり..!
「そこ、俺の部屋なんです!今日転校してきたばっかで...場所が分かんないで一緒について行っていいですか?」
悠は安堵からその男性を崇めるような目で見つめ、お願いしますと頭を下げる
「私は構わないけど...授業はいいのかい?もう始まっていると思うけどねぇ」
男性はそう呟くと腕時計に目をやり、目を細める
「大丈夫です。それよりこの子の手当てをしたくて...」
悠は恐る恐る男性に背負う彼を見せる
また存在がないかのように無視されるのではないかと、心配だったからだ
「っ!どうしたんだね、この傷は...!?病院がいいんじゃないか!?保健室は!?」
だが中年男性の反応は悠の予想とは違い、人間味あふれる暖かいものだった
これが普通のはずだが悠は少し驚き、また嬉しかった
「病院は、大丈夫です。保健室も....大丈夫です。俺が手当てするんで、部屋に案内してください。彼を安静にしてあげたいんです」
病院なんて大ごとにしたら彼にとって迷惑になるかもしれない
とっさの判断だったが、後悔はしていなかった
「そうかい...。わかった、これが最後の荷物だから急いで向かおう!」
心優しい男性に着いて行きエレベーターで二階へ上がると、悠の部屋があった
しっかりとした造りで、どこぞの家の玄関のように頑丈な扉を開けると、先に運び込まれたダンボールの山があった
足を踏み入れる部屋にはある程度の家具は揃い、ベッドも備えられている
風呂場や冷蔵庫、洋服タンス、クローゼットなどがあり、ベランダまでついており、一人部屋にしては広いくらいだった
備え付けのベッドに彼を下ろす
明るい部屋の中で見る彼の傷の具合はまた酷いものだった
白い長袖のシャツは土だらけで、ズボンにはちょっとした汚れが付いている
「手当てといっても何をするんだい...?私に手伝える事はあるかい?」
男性の声に悠は顔を上げると、運び込まれたダンボールに近寄り”日用品”と書かれたものを開ける
中から救急箱を取り出し、いま必要なものを出していく
軟膏、絆創膏、包帯、テープ、ガーゼ、湿布
「これだけあれば大丈夫だと思うんですが...手伝ってもらっていいですか?」
悠の問いかけに男性は頷くと、二人で傷だらけの彼の手当てをしていく
シャツを脱がすと洗濯機に放り込む
さすがにズボンを脱がすことはできないと思い、濡れたタオルで汚れを拭き取ってあげた
固まりかけている血を拭い、消毒の後に軟膏を塗る
染みるのだろうか、時々彼の小さく呻く声に胸が痛む
顔や腕、腹や背中など上半身に見られる傷を手当てしていく
「どうして彼はこんなに怪我をしているんだい...?それに、この跡は今できた傷じゃないね...今日よりも前から彼は怪我しているようだ...」
「え、どういうことですか?」
男性は悠の質問に答えるわけではなく、彼の背中を指差す
「黄色く変色しているだろう?痣が治癒し始めるとこんな色になるんだ...それにしても、酷いなぁ..」
眉間に深いシワを作り考え込むように男性は呟く
青紫色の痣はもちろん、あちこちに黄色い痣が見られる
彼はずっと前から暴力を受けていたんだ...
「あの、これ誰にも言わないでもらえますか...?実は彼が集団の中で殴られている所を見てしまって....たぶん、いじめだと思うんです。でも」
「彼の同意なしに先生や警察になんかいったら、逆に迷惑になるかもしれないので...お願いします...」
悠が頭を下げると男性は、頭に軽く手を乗せた
「分かったよ、誰にも言わないよ...君に出会えて彼は救われたかもしれないね...」
男性は頭を上げた悠に向かい微笑むと、ベットで眠る彼に目を移す
「...ありがとうございます...!!」
俺はあなたに出会えて救われました
心の中でそう呟くと、手当てを終えた彼の肩辺りまで布団をかぶせてあげる
「それじゃあ、私は仕事に戻ろうね...これは職員室に返しに来るように言われているんだがどうしようか」
男性はポケットから鍵を取り出した
悠の部屋の鍵のようだった
「あ、俺が貰ってていいですか?職員室には自分でいきますんで...」
「ああ、大丈夫だよ。私が伝えておくから。君は彼の側に付いててあげなさい」
悠に鍵を渡すとまた優しく微笑み、立ち上がる
「ほんとにありがとうございましたっ!助かりました!」
悠は扉を開けた男性に頭を下げる
男性は微笑むばかりでいいんだよ、というと部屋を出ていった
悠は扉に向かい一礼する
本当にあの人に出会えてよかった
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