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物事を冷静に捉えて考えるには、まず今までの段階をしっかり理解する事が大事だ。
そう…俺は今、あれやこれやといろんな手を使って虎鉄を風呂に入れ、湯船に浸からし、何やかんかで俺が勝手に大混乱した挙句……
現在もなお、有り得ないくらい密着しながら浴槽に入ってます。
「…。」
……つい、また入ってしまった…。
…いやだってさ…あんな顔されたらそりゃ入っちゃいますよ。
……あんな……あんな顔…。
「……。」
さっきと同じ体勢。
遥歩の足の間で、虎鉄は自分の膝に顎を乗せて遥歩に背を向けたまま座っていた。
2人、両膝を立てながら入って精一杯の狭い浴槽。
遥歩はただただ、虎鉄の背中をぼーっと見つめていた。
「……何か、不思議だなぁ。」
「…?」
小さく呟いたつもりだったが、風呂場だったためか遥歩の声は思っていたよりも響いた。
虎鉄は、ちらりと後ろを見る。
「…もうどっからつっこんだら良いのかわかんないけど、今俺…虎鉄と風呂に入ってるんだよなぁ…。」
「…だからなんだよ。」
虎鉄は、何が言いたいのかわからないと言った顔をする。
「だってさ、お前が犬の姿だった時だって、こんなふうに同じ湯船に浸かるなんて事出来なかったのに…今じゃ、人間にはなっちゃってるし、言葉が通じる分我が儘ばっかりだし、それでいて…こうしてゆっくり、一緒に風呂に入れてる。」
「…………………嫌、か…?」
「え?」
予想外の虎鉄の言葉に、遥歩は思わず聞き返した。
「…やっぱ、変だよな…わかってる…俺は犬で、お前は人間……わかってんだ、そんな事。」
「…虎鉄…。」
「……正直、自分でも何でこんな事になったのかわかんねぇよ…今も、お前以上に混乱してるし…。」
「…。」
……何か、今初めて…虎鉄の本音っぽいものを聞けてる…のか?
ちゃぷっと、少し水面が揺れた。
「……俺…気持ち悪ぃか…?」
「な、何言ってんだよ!俺がお前を気持ち悪いなんて思うわけねぇだろ!」
静かだった空間に、遥歩の声が響く。
虎鉄の背中に向けて放たれたその言葉が、虎鉄の胸に刺さった。
「…。」
「…虎鉄、こっち向いて。」
「はっ?い、嫌に決まってん 「いいからこっち向け!」
「っ…!」
そう言うと、遥歩は虎鉄の両肩を掴み、ぐいっと自分の方に身体を向けさせた。
いきなりの事で、思わず虎鉄も目を見開く。
遥歩の顔は…至って冷静だった。
「確かにびっくりはした…ちょっと……いや、かなり…うん………でも、気持ち悪いなんて微塵も思ってねぇ。有り得ない事が、今お前の身体で起きてるみたいだけど、気持ち悪いなんて思わねぇよ。」
「…。」
…いろいろ、強がってたんだ…きっと。
…不安だったんだ…そうだろ?虎鉄…。
「…俺さ、東京にいた時…お前を忘れた日なんか、1日もなかったよ。」
「…っ!」
…母さんの話を聞いて、虎鉄もそうだったんだって事…知ってるよ。
「…嘘つけ。」
「嘘じゃないよ。」
「…どうせ、他の犬にデレデレしまくってたんだろうが。」
「…いや、それはない。」
「…。」
「…。」
「………本当か…?」
「!………本当だよ。」
遥歩は、そう言って眉を下げて笑った。
…なんか、夢なのかな…これ。
…俺が虎鉄を好きすぎた余りに見える幻覚的な…。
……あー…なんか、そんな気がしてきた…。
…だって、ちょっと信じらんねぇもん…。
…あの虎鉄が…こんな不安げな顔を、俺に見せてる。
…こんなに近くにいる…。
…触れてる……男の身体だけど。
「また会えて嬉しいんだよ、俺は。」
「…。」
そう言うと、遥歩は今度こそ浴槽から出ようと再び立ち上がった。
洗い場に足を踏み出し、壁に設置されているシャワーを手に取った。
…ちょっと長く入り過ぎた…のぼせたかな…。
「…。」
浴槽に入ったままだった虎鉄は暫く動かなかった。
遥歩には見られまいと下を俯くその顔は…少しだけ泣きそうな表情を浮かべていた。
すると虎鉄は顔を上げ、浴槽の縁に手をかけ、遥歩の方に身を乗り出した。
「遥歩…!」
「ん?……………っ。」
………あれ……え……?
名前を呼ばれた遥歩は、虎鉄の方を振り向くと…。
…ちょうどそこには、虎鉄の顔が目の前にあって…。
振り向いたのと同時に…虎鉄は…。
…ぺろりと、遥歩の口元を舐めた。
「…………ぇ…。」
…何……今……な、舐め……。
「………こ…こて、つ…。」
……犬が…。
…犬が、飼い主の口を舐める、のは……。
「……サービスってやつだ、ばか。」
「………。」
……”敬愛”の証…なんつって…。
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