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1-16 ピアノ
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「ふむ」
「…。」
「よくなってるよ」
「ほ、んとですか」
「あぁ、特にここね。"心をこめて"って私の言葉、わかったかな。でもこの4小節、少し"走る"から気をつけてみて。」
僕が弾き終わると、決まって先生は「ふむ」と言って一呼吸おく。
その一瞬が、僕が一番緊張する瞬間。もうおじいちゃんな見た目だけれど、先生がピアノを弾く姿は毎回本当に感動させられる。
"心をこめて"。
よく、先生はそう言うけれど、実はいつもピンとこない。どんな"心"を込めたらいいのか、わからない。
つまりは"ていねいに"弾くことかなって、そうおもってはいるのだけれど。
「匠くん、何かいいことあったかな」
「え、僕ですか?いいこと…?」
「君は、自分の気持ちが音に出やすい子だからねえ」
先生はやさしい顔で笑って、楽譜をめくる。
「…ごめんなさい」
「いやいやあ、全てが悪いといっているわけではないよ」
「友達、と。同じクラスになれたのがうれしくて、それが出ているのかもしれません」
「そうかい、それはよかった。じゃあ、次のフレーズに行こうか」
「はいっ」
いいこと、と言われて、
頭に浮かんだのはのむちゃんで。
のむちゃんと同じクラスになれたのは、やっぱりうれしくて、そして安心した。
先生は深くは聞かなかったけれど、中学のころ僕に友達が少なかったことは知っていて、たぶん心配もしていたのかなっておもう。
有名な先生だから、ものすごく厳しいレッスンをするのかなと不安もあったけれど、
こうやって学校のことも聞いてくれたり、
逆に先生から話をしてくれたり、僕のとっても癒される時間のひとつ。
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