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1-47 事実
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「お前、すごいな」
「…ぇ」
「さっき弾いた曲、その場で作ったやつなんだろ?ソッキョウ演奏って聞いた。弾けるだけでもすごいのに、ソッキョウで作るってお前やばすぎ」
「…ありがとう」
「!」
コンクールが終わったあと、話しかけてくれたのが一哉だった。
僕が即興で演奏した曲を、すきだといって笑ってくれた一哉。僕が言葉を返すと、彼は少し驚いた顔をして。
そのときには気づかなかったことが、今ならちゃんと分かる。
僕の声がリンと似ていることに、このとき一哉は気付いたのだと。
「お前、弾いてる間何考えてるの?」
「…えっと、…多分、何も…」
「何も?何も考えてねえの?」
「…うん。指、勝手に…動くから」
「すげえ…」
話すのが下手くそで、ゆっくりとしか返せないのに、いつもそれが人をイライラさせるのに、一哉は気にする風でもなく僕の言葉を待ってくれて。
そのときから、僕はきっと一哉に惹かれていた。
僕を見てほしかった。
僕だけを、見てほしかった。
この気持ちは友情と呼ぶには汚すぎる、そう、気づいたとき。僕は、一哉のことがすきだと自覚したのだった。
少しずつ、仲良くなって、僕は自分の思っていることをすらりと言えるようになっていった。僕が言うことを、一哉は受け止めてくれる。そう、そのときは信じていたから。
ー もう、来ないで。
あのときの一哉を、僕の頭は何度も何度も再生した。
やっとおさまってきたところだったのに、こうも揺さぶるのはどうしてなんだろう。外は、なんてこわいところなんだろう。
ぐらりぐらりと視界が揺れる。
受け止めてくれるも何も、彼はきっと僕の話すことなんて何も聞いていなかった。
彼は僕の声にリンを見て、リンのことを想って僕を抱いた。
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