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1-52 雪ちゃんのきもち
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ねえ、続き弾いて。と雪ちゃん。
じゃあ、はじめから聞いてね、と言って僕はまた音を奏で始めた。
ちらり、雪ちゃんの方をみると、彼は机に片方のほっぺをくっつけて僕のピアノを聞いていた。目をつぶって、その顔は何かに耐えているようでもあった。
「あぁ、別れの曲、だったんだね」
「雪ちゃんが起きたときは、ちょうど真ん中だったからねえ。このメロディーじゃないところだったのお」
有名な旋律をBGMに、僕たちはゆっくりとお話。
曲が中間部にさしかかる。僕の指が鍵盤を叩く。和音の連続に、僕は没頭し始めた。
「"俺"さ」
それを知ってか知らずか、雪ちゃんは口を開いた。
その声はとても小さくて、まるでひとりごとのように、ささやくように、雪ちゃんは言葉を紡ぐ。
「もうすぐふた月も経つのに、まだ慣れないんだ」
僕は何も答えられない。
「"俺"はすごくなんてないよ。外から逃げてきただけだもの」
ぐらりぐらり揺れていた僕の視界は、いつの間にか止まっていた。
別れの曲は、優しく穏やかなメロディーに戻って、
僕はそれを、"心をこめて"弾いた。
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