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1章(1)
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長年の相棒だった馬のジェンナが死んだ。
そのとき、リノルは21歳で、生物学の学位を取得するための最終試験の最中だった。
リノルは嘆きも騒ぎもしなかった。そして無事試験に通った。
両親は卒業祝いとして、新しい馬を買ってやろうと言った。
ところが市場で取り引きされている上等の馬のどれを見ても、リノルの心は動かなかった。
どの馬もよそよそしく、色のないぼやけた夢のように遠く感じられた。
「ジェンナは最高の馬だったんだよ」
とリノルは乗馬仲間のフレディに言った。
「僕の十三歳の誕生日プレゼントだったんだ。朝起きたらあいつが庭に来ていてね。テラスの前の芝生をちょっと困ったように行ったり来たりしてた。塀の向こうから朝日が射して、たてがみが銀色に輝くようだった……」
フィレディは退屈そうに、真新しい洒落た上着の裾を引っぱりながら言う。
「ああ、もう聞き飽きた」
リノルは兄の一人が出資している研究施設で助手の職についた。
そのかたわら学校へも通い続け、とうとう獣医の資格をとった。
何年もの間、リノルはジェンナの代わりの馬を探し続けた。
しかしジェンナに匹敵する馬は二度と見つからなかった。
「曲乗りだぞ、リノル」
バーカウンターにもたれ、手にしたサーカスのチケットを振りながらフレディは言う。
「それはそれは見事な脚の、黒髪の美人が出るそうだ。見に行こう」
「脚と言えば」
リノルはつぶやく。
「ジェンナはとても足が速かった。きみも驚いていたよね。流感で死んでしまったなんて今でも信じられない」
「おまえは過去に生きてるんだ。あまりいい傾向じゃないな」
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