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9章(1)
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フレディは一週間ばかりしてふらりと帰ってきた。
月が細く風の強い夜だった。
リノルは早くに自分の部屋に戻っていたが、風が窓を揺らす音とは別に、確かに誰かが外から来て玄関を開ける音がした。
自分以外に家の鍵を持っている者はフレディしかいない。
戻ってきたのだ。
リノルは着ていた薄青いパジャマの上にモスグリーンのガウンを羽織って寝室から飛び出した。
フレディはマットの上でブーツの泥を落としながら、コートを脱いで壁に掛けているところだった。
それからキッチンに入って行っていつも彼が使っているカップに水を注ぎ、何事もなかったようにテーブルの前に座った。
リノルは戸口に立って、ただ彼の動きを目で追った。
「……遅かったね」
ようやくそう声をかけると、フレディは振り向かずに、じっと暗い窓の方を見つめて言った。
「あそこへ行ったのさ。おまえが言ってた島に」
リノルは息をのんで一歩あとずさった。
怯えとも苛立ちともつかない感情が胸をついた。
「どうして?」
フレディは答えなかった。
「ねえ、どうして?」
リノルは繰り返した。口調に動揺がにじんだ。
フレディはなおも黙っている。
「ぼく、危険だって言わなかったかい? ぼくの話でそれがわからなかったのか?」
「そうだな」
リノルは浅くなっていた呼吸を整えると、いくぶん落ち着いて、声音をやわらげてつぶやいた。
「……でも、きみが無事でよかった。すぐに帰れたのなら、それはきみが呼ばれてないってことなんだから」
フレディは立ち上がり、歩み寄ってきた。
間近で顔をのぞき込んできた彼の深い目の色を見て、リノルは胸をつかれた。
彼はこんな目をしていたのか……こんな目でぼくを見ていたのか……
まるでしばらく会わなかった自分の女でも見るみたいに……
でも、いつから……?
と思うと、彼はもう目をそらして傍らを通り過ぎた。
「明日……いや後で話すよ、今夜」
彼はそう言ってバスルームのドアを閉めた。
しばらくして遠くの雨のようにシャワーの音が聞こえ始めた。
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