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9章(3)
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フレディの言葉が無理矢理口に注がれた強すぎる酒のように流れ込み、その甘さで咽喉が焼かれそうだった。
今にも飲み込めずに吐き出すか、唇から溢れ出しそうだ。
「わからない。わからなかったよ。ぼくはどうしようもない男だし、人を喜ばせるようなことはなにひとつできない。誰かと関わっても失望させるだけ……」
フレディの手が離れた。
かわりに、のぞきこむように凝視してくる。
「おまえ、そんなふうに思ってたのか」
リノルは強い視線を避けるように顔を横に向けて暖炉の方を見た。
もう一度話し出そうとしたが、風邪をひいたときのような声になるのを止められなかった。
「自分がそう思っているってことを自分でも知らなかった。今頃気づいたんだ。あの男は違っていた。自分のすることも、自分の欲望も、何ひとつ恥じない。他人の思惑なんか顔色一つ変えずに無視できる」
ふいに、涙がひとつぶ頬を伝ってこぼれ落ちた。
「だから余計憎かったんだ。妬ましかった。歪んでいたのはぼくの方かもしれない。あの男は吐き気がするほど正直で、貪欲で……それがどうしても許せなかった。ぼくはあんなふうに堂々と、人に対して何かを求めたことがなかったから」
フレディは手のひらをリノルの頬に押しあてた。
そっと涙を拭きとり、なおもあたたかく頬を包んでとどまった。
「求めればいいじゃないか」
彼はおだやかに言った。
「でなきゃ拒否しろ。どっちでもいい。どっちを選んでも何の得も損もないんだからな。俺たちの間では」
「そうだね」
リノルは小さく笑ってささやいた。
緑の目が涙を溜めてゆらめき、さらに暖炉の火を反射して妖しくきらめく。
それから静かに息を吐いて目を閉じた。
フレディが何かするかと思ったのだ。
しかし、いつまで経っても何も起きない。
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