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3章(1)
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リノルは客用の寝室の、ベッドの上で眼を開いた。
くたびれたので、部屋を用意してもらって休んでいたのだ。
いつの間にかうたたねしていたらしい。
おかしな夢を見ていた。
リノルは馬から下りたあと、厩舎につれてかえって水を飲ませ、丁寧にブラシをかけた。
それから蹄に詰まった泥を取ってやろうとして、そっと足を持ち上げた。
だが蹄がなかった。馬の足の先は、青黒い、硬い鱗のようなもので覆われていた。
押してみると、その内側には、肉球のようなやわらかい層があるのがわかった。
どうりで音もたてずに走るわけだ、と思うと同時に、なにかぞっとする感じをおぼえた。
馬の足の裏は、人間の赤ん坊の手のひらにも似た形をしていた……
だがあれは夢ではない、たしかに馬の足を見た……。
しきりに思案しながら、リノルはぼんやりと天井に視線をさまよわせた。
部屋の中に人の気配がした。そばに誰かが立って自分を見下ろしている。
リノルは起き上がろうとしたが、身体が動かなかった。
手足にまったく力が入らず、背中はシーツに貼りついてしまったように、浮かすこともできない。
人影が無言のまま身を屈めてくる。
館の主人だった。
なぜか興奮したように荒い息をついており、その息が顔にかかって、湿った、なまぬるい悪臭がただよってきた。
ベッドがきしんだ。
男が、さらに顔を近づけてくる。
その薄黒い顔がゆらめき、不気味に膨れ上がって見える。
ただ神経が疲れているのだ、と考えられないこともなかった。
だがリノルには自分が、この男の、なにか邪悪な魔力のようなもので金縛りにされたように感じた。
男はふざけて犬の真似でもしているように、口を開いて舌を出している。
やけに長い、赤黒い舌がせまってきて、べったりと唇に押し付けられた。
リノルは必死で顔をそむけようとしたが、それもままならなかった。
下肢にのしかかってくるような重みを感じ、肌がむき出しにされるのがおぼろげにわかった。
リノルはいつのまにか全裸でベッドに磔にされていた。
部屋がゆがみ、天井が回転しながら遠ざかったり、近付いたりする。
声が出なかった。
ようやく咽喉からしぼりだせたのは、かすかなささやき声だけだった。
「助けて」
「ああ? なんだって?」
天井の方から、男の太い声が不気味に轟いた。
「阿呆だな、減るもんじゃなし……」
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