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欠けてゆく〔3〕
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昼下がりの日曜日。
兄と最後に顔を合わせてから、今日で丁度2週間。
机の上に置かれたままの冷めた昼食。その反対側に座り、握り合わせた手を額につけて、祈る様に兄の帰りを待つ。
これも… 今日で最後だ。
あの夜から5日経っても兄は帰って来ず、遂に自分が家を出る決心をした。荷物をまとめ、新居を探し、両親にも適当な理由を付けて1人で暮らし始める事を伝えた。
それでも自分をこの家に留まらせたのは、せめて巣立つ前に、兄の顔を見てきちんと感謝を伝えたいという我儘な思い。
だが結局、10日を過ぎても兄が戻ってくることはなかった。このまま待ち続けていては決心が鈍ってしまいそうで、自ら2週間というタイムリミットを定めた。
兄さん………。
いつもより、時間の流れが遅く感じる。
神経もひどく敏感になっており、今日この日だけで、もう何十回もドアが開く幻聴を聞いた。
______ガチャッ
またか…。
玄関から聞こえる僅かな音。
これまでとは違い、やけにリアリティがある。
徐々に募る小さな期待。
静かに席を立ち、玄関へと続く扉を思い切って開けた。
下を向く人影。
顔は見えなかったが、一目で兄だと判った。
「っ兄さん!」
思わず声をあげ、近くに駆寄る。暗くて表情はよく見えないが、少し驚いている様な気がした。
その存在を確かめるように、
無意識に手を伸ばして兄を抱きしめる。
本物だ。夢じゃない。
そう安心した時、兄の異変に気がついた。
異常な体の震え、速く荒い呼吸、
うわ言のように繰り返される「嫌だ」という言葉。
自分が原因なのだとすぐに分かった。
抱きしめるのを止めれば解決するのだろうが、
この手を緩めたら兄が壊れてしまう様な気がして…
ぎゅっと抱きしめたまま、迷子の子供をあやすように、
ただただ無言で 兄の頭を優しく撫で続けた。
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