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齟齬〔2〕#兄
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勢いよく開けたドアに滑り込ませるようにして体を押し入れ、響く心拍を感じながら手を回し部屋に鍵をかける。
ドアに背を貼り付け、詰めていた斑らな息を小刻みに吐き出し、不純物の無い冷えた空気を身体に貯めた。
内から冷めてゆくなだらかな感覚に”安心”が宿る。
弟が怖かった訳でも怒りに蝕まれていた訳でも無い。
ただ、その姿を見れば見るほどに、
冷静になろうとすればするほどに、
心は動揺し、対応の選択が混雑した。
今までどのように接し生活していただろうか。
あの男はこれからをどう変えるつもりなのだろうか。
変わらぬ笑顔を見るたびに
現実と想像の境が崩れ、曖昧になってゆく。
こんなことなら、今朝のように
一種の感情に支配されていた方が良かった。
その方が随分と気楽だった。
この先の未来、明日の事ですら一点も描けない。
”変化”が怖ろしいのだ。
この生活が、この関係が、家族が、
確かに変わり始めたこれらが、
段々と確実に得体の知れないモノになっていく。
以前、確か大学時代、
あの弟に、明らさまに遠ざけられていた時期があった。
アイツもそうだったのだろうか。
アイツも同じように、モノは違えど、変わりゆく事実に
どうしようもない恐怖を抱いていたのだろうか。
毛先から落ちた水滴が足先の甲にあたる。
自分がバスタオルを羽織るだけで
他に何も身につけていない事に気がついた。
寒い…
暗闇の中躊躇なく足を進め、
やわらかな布に身を潜らせる。
そっと目を閉じ、静かな呼吸に耳をすませた。
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