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不可逆
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屍のように背を向けて横たわる兄の首にそっと手をあて、恐る恐るその鼓動を確かめる。
「さわんな。…」
枯れてガサついた兄の声が静かに響き、重たい体がゆっくりと起こされた。
「ッ痛ってーーー。 クソッ。 今何時だ。」
部屋に差し込む陽の光を見て眉間にシワを寄せながら聞かれ、壁にかけてある時計を確認する。
「…8時12分。」
「はぁ? 8時12分??
会社間に合わねーじゃねーか!」
そう言って勢いよく立ち上がるが、また直ぐによろけてその場に倒れてこんでしまう。支えようと手を伸ばし肩を掴むが、キツく睨みつけられその手を払われた。
「兄さん、その、体辛いだろうし今日は休んだ方が… 」
「ッふざけんな!! そう簡単に休んで良いモンじゃ
ねーんだよ! そもそも誰の所為でこんな状態になっ
てるのか分かってんのか? 」
「…ごめん……。」
これでもかと怒鳴りつけられ、兄の怒りを身にしみて感じた。それに対して短く謝る事しか出来ず、もどかしさと罪悪感が心を支配する。
近くの家具につかまり、生まれたての子鹿の様に立ち上がる兄。そのまま腰に手をあて、フラつきながらリビングを出て行った。
加害者の自分は、その後姿をただ見守ることしか出来ない。
自分が同じ空間に居るのをひどく嫌がるだろうと思い、兄の分の朝食を皿に盛りつけ、謝罪の言葉をメモに書き、荷物を持って早々に家を出た。
どこか、頭を冷やせる所に行こう。
そう思って、駅の方へと足を進めた。
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