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この日
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あの後少し気まずい空気になってしまい、居づらくなってしまった葵は、帰ると申し出た。
「ごめんな…なんか…」
せっかく遊びに来てくれたのにと、本当に申し訳なさそうな航が玄関先まで来てくれた。
「いいんだよ、また誘って?」
葵が笑顔で応えるものの、航の表情は曇ったままだった。
なんだかんだ、航は人の感情に敏感だ。
何も考えていないように見えて、実は人一倍考えている。
たぶんそれは、葵しか気付いていないようなことだった。
「僕の親友は航だけなんだから。航が誘ってくれなきゃ、僕はもう二度と友達の家に遊びに行くという貴重な体験ができなくなるかもしれないんだぞ」
「…ははっ、なんだそれ」
「だって今日ですら初めてだったんだ。それを考えると、そうなったっておかしくないだろ」
「まあ…たしかにそうだな!」
葵の面白いのか面白くないのかがまったくわからない話をしているうちに、航はいつもの調子に戻っていた。
「葵、また遊びに来てくれよな」
「当たり前だろ」
葵が帰路に着こうと玄関先から外に踏み出した時、微かに航の声が聞こえた。
「…ごめん」
何に対して謝っているのか、葵にはわからなかった。
今日の出来事に対してか、
それともまったく違うことに対してか。
振り返ると航はいつも通りの笑顔を浮かべ、ひらひらと手を振っていた。
葵もそれに応え、手を振り返す。
小さな謝罪は、「いつも通り」の中に消えていった。
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