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離せってば
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追いかけ、捕まえることにばかりに囚われていた過去の自分を責めざるを得ない。
慣れないことはするな。そういなしてやるべきだった。
「クッ…離せっ、てば」
これじゃ、限りなく俺がひったくり犯だ。
男の手にはさほど力が入っていないように思う。
両腕を右手一つで押さえ付けられている現実を、
自分の目で受け止めきれず、悔しくて顔を上げた。
真っ直ぐにした目線の先は、
はっきりとした喉仏をとらえ、
頭一つ分更に視線を上げて、
ようやく男の鼻先を捉えた。
身動きとれずにいる俺をあざ笑うかのように、男の前髪は男の頬の上でゆらゆらと揺れている。
おおよそひったくり犯がつけそうもない、
清潔感のある香水の香りは、
どこかで嗅いだことのある懐かしささえ感じた。
「だって、なんか勘違いしてますよね」
男はそういうと、反抗する勢いをつけるかのように
右手に力を入れた。
「クッ…。」
この後に及んで尚も見られずにいた男の顔を
この瞬間に俺は視界にいれた。
「なっ」
端正な顔立ちは、今尚、怒りに満ちてはいるものの、
隠しきれない美しさを放っていた。
思わず顔の良さに声を出している様は、側から見たら
ただのファンだ。もはや握手会かなんかだ。
「勘違いってなんだよ。逃げてただろう」
凶暴な犯罪者に屈指まいと声を出すことはできずとも、
自分が見惚れた事実をかき消すためには、
口から真っ当な言葉が飛び出る。
これ程までに情け無いことはあるのだろうか、
「あなたが追いかけてくるから。」
くだらない押し問答が続きそうな予感に、
遠回しな質問はやめ、
率直かつ明瞭な質問を投げた。
「何、盗んだんだ」
「盗む?…なにを」
ぼくが?
そう続いた回答に、
くだらない会話から逃れられないと悟った。
「勘弁してくれ。そういうのはいいんだよ」
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