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豊富悠也 No.9
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「………っ!」
瞬間的に、それが誰だか分かった。
だってこの部屋の住人は自分以外、一人しかいないから。
思わず、紙の上を滑っていたペンが止まり、鼓動が微かに早まった。
「……何してんの?」
東は悠也の隣の机に荷物を置くなり、そう聞いてきた。
「べ、勉強」
「へぇ…」
東はそれっきり口を閉ざしてしまった。
机に座ると、悠也と同じように勉強を始めた。
「………………」
(何で、何も言わないんだよ……)
東の口からは「ごめん」も「大丈夫か」という言葉も出ない。
ただ重い沈黙が続くだけだ。
「………………」
「………っ」
さっきはそこにいなかった。でも、今は本当にいる。
そこに存在するだけで、こんなに心が重く複雑な想いにされるのか。
「………………」
「…あ、あの───」
「あのさ」
沈黙に耐えきれなかった悠也より、はっきりした声で東が遮ってきた。
「な、何……?」
「風邪、もう平気?」
「あ、う、うん。まあ……」
「テストは?」
「えっと……、ヤバいから勉強してるわけで……」
「───……そうか」
掴み所のない返事をしてきた東に、結局何が言いたかったのか解らずじまいに会話が終わってしまう。
今度は悠也から話しかけてみようか。
「……っ」
どうしても、その勇気が出ない。
また何か適当なことを言ってしまって、昨日みたいなことになってしまったら───。
「悠也」
「はっ、はい!?」
突然名前を呼ばれて、おかしな返事をしてしまった。
顔を向けると、東が真剣な面持ちでこちらをジッと見ている。
「……悠也」
「………っ」
繰り返し悠也の名を呼ぶその様子に、何となく東が言わんとしていることを察した。
けれど、この話題を心のどこかで避けていた自分もいたせいで、今すぐこの場から逃げ出したいと思ってしまう。
何を言われるか、分からない。
何をされるか、分からない。
でも、東の考えていることが一分後にはようやく分かる。
そう悠也は期待していた。
しかし、東から出てきた言葉は悠也の予想を上回っていた。
「───俺さ、寮を出てくよ」
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