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昔のこと
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あれはいつのことだったかな。
河原に座って、虚ろにただ水面を眺めている男を見たのは。
通勤中のサラリーマンと等しい存在だった彼が、俺の視界に入ってきたのは。
中学校に行くのに近道の、近所の川沿いの道。
春には桜並木が咲き乱れ、夏には子どもたちがはしゃぐ浅い川で、俺も遊んだ記憶がある。
その川にかかる橋の横に、彼は座っていた。
毎日、ほとんど毎日、同じ場所に。
橋を渡るときに横顔が見えた気もするが、中学生の俺の記憶には残っていないようだった。
ただ、あの後姿だけは鮮明に覚えている。
虚ろで、空しげで、寂しげで、哀愁漂うスーツの男。
子どもだった俺はあの虚ろな背中を、なぜか大人だと認識したらしくて、どこか憧れている部分もあったんじゃないかとさえ思う。
まだ涼しい夏の朝に見ることもあれば、土手が赤や黄色、茶色に染まる秋の夕方に見ることもあった。
いつも一人で、何をするでもなく、ただ水面を眺めていた彼の、広くも狭くもない背中。
彼は、何を見ていたのだろうか。
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