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司 side
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街灯の明かりがつく頃、俺は自宅へと帰っていた。…あの場から逃げてきた俺は考え事をしながらいつもの帰り道を歩く。
(……やってしまった。)
司はケーキ屋での事を悔やんでいた。
幼い頃からずっと親に圧力をかけられ、俺は感情を押し殺すことが当たり前になっていた。
だけど時々、自分の感情を抑えきれないことがあった。
(俺ってなんて未熟者なんだろう。こんなに弱かったっけ?……初めて俺が怒鳴ったから、洸のやつ凄く驚いていたな…。)
司は俯き深い溜息を吐く。
…元々人付き合いも人前に出るのも苦手だった俺には、芸能界なんて全然向いていない職業だった。
幼い頃に親が勝手に芸能事務所に応募書類を送った。母親は自分が夢見ていた芸能界に息子を入れることに執着していた。
俺の意思など関係なく自分の意見を押し付けてくる母親に反発するかのように、俺はダンスや歌の稽古を真面目に取り組まなかった。
…真面目にしない俺のことを母親は思いっきり引っ叩いてきた。
俺は赤く腫れた頬を右手で抑え、母親を睨み返した。
「親に向かってその目は何よ!どうして私の気持ちをわかってくれないの⁉︎…貴方は有名になるの!誰もが貴方の名前を知っていると言われるほどに…」
「さぁ、指導してくださった先生方に今すぐ謝りなさい!」
母親は俺の服を引っ張り、頭を押さえつけ無理やり謝らせた。
俺は悔しくて悔しくて、涙を流しながら、
……あぁ…俺は…これから人に媚びて生きていかなければいけないのか…
芸能界に入ったことを物凄く後悔していた。
この時から俺は母親に従い、自分の感情を押し殺すようになってしまった。
『HIKARI』のリーダーである今でも、人に愛想を振りまいたりする事に抵抗を感じ、母親に従う自分がいる。
…それに芸能界という所はとても残酷な場所だ。周りからは勝手に自分のイメージを決められ、何かあるとネットでは叩かれる。
…いきなりはやし立てられ人気になったと思えば、飽きたらすぐに次を探し今までのはやし立ててきた事を忘れる。
…俺は闇を感じるこの業界と母親に嫌気がさしていた。
『HIKARI』が結成したのは2年前だった。俺がまだ中学三年生の頃のことだ。
8月の陽射しが強い日、俺の元にある一通の手紙がきた。
それは俺と同い年くらいの男子を集めてアイドルグループを作らないかという事務所からのオファーだった。
今まで俺はバックダンサーなど陰で支えるような特に目立たない仕事ばかりしていた。
そんな俺に何でアイドルのオファーが来たのか今でもわからない。
最初は、良い歳してアイドルなんて馬鹿らしいと思っていた…。
だが当時、俺の家は親の離婚で荒れていた。母親はあのような性格だし、父親は危ない関係の仕事していた。
俺はそんな息苦しい家に居たくなかった。
だから仕事を忙しくしたら家にいる時間が減るのではないかと考え、そのオファーをつい受けてしまう。
…中学三年生だったので、進路先の高校を葉月山学園に決めていた。
そこを選んだ理由は、芸能科コースがあったからである。
芸能科コースは、仕事が忙しい時は休める制度があり、俳優やモデルの卵が集まる場所だったので人に騒がれる心配もしなくて済む。
少し肌寒くなり、山々が紅葉する時期にグループの初顔合わせの日がやってきた。
そしてそれは、こんな俺の心を変えるあいつとの出会いでもあった。
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