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伝説の剣豪
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ガシャガシャと金属の音が耳に木霊して、目を瞑って死の衝撃を俺は待った。
が 、
いつまでたってもその瞬間は訪れなかった。
傷ついた肩をゆっくりたどる、ぴちゃぴちゃと濡れた音と刺激だけが、俺に感じ取れた。
ゆっくりと、つむった目を開く。
床に刺さった折れた剣の残骸。
呆然として目を見開いたままの、ケイルの顔。
そして、俺の肩を舐める美しい男が、俺の剣をもっていた。
「ガイ……、ガイザック…」
小さく震える唇を震わせたケイルに、その男は血に塗れた唇をひきあげて、
「…っと…遅くなっちまった。たでぇま、ケイル」
美しい男は全裸のまま、俺の血を啜ったことで満足したのか、俺からするっと手を離してケイルへと近寄っていき、
「再び逢えて嬉しいぜ」
ケイルの頭を撫でて、子供にするような仕草で額に口付けを施した。
ガイ……ザック。
ケイルは確かにそう呼んだのだ。
ケイルの前のかしらの名前、国一の大悪党で大陸一の剣士、ガイザック・スネイクだというのか。
幹部たちは涙を流して、喜びをかみ締めているようだ。
馬鹿らしい。
俺はそのために、捨てられたのだ。
「俺……一味を抜けるぜ。悪いけど」
この悔しさが分かってたまるか。
そりゃあ 俺なんて替えのきく特攻隊だろうけど。
ガイザック・スネークだってェなら、俺なんかを切り捨てても救いたい理由になる。
分かってはいたが、異常に悔しかった。
「ルイツ」
ケイルの表情が変わり、俺を止めようと怪我した腕を掴む。
「すまなかった……、俺は、彼を救って欲しくて……」
「謝ってすむ問題じゃねえだろ?あんたらは俺を切り捨てたンだ」
信頼のおけない首領の下につくことはできない。
ケイルの顔は歪み、こぶしを何度も震わせる。
殺されそうになった首領の下になど、つく程俺はお人よしでも馬鹿でもない。
俺は踵を返して、バラックを出ようと振り返った瞬間、全裸の男にいくてを遮られた。
「ふうん。ルイツ、ってぇのか。あんたが王を殺して、オレをつれてきたのは、ちょっと覚えてるぜ。王を殺したなら、あんたがオレの主人だ。オレを抱けとは言わねえよ。ちょっと体液を時々飲ませてもらえりゃあ、なんとか正気は保てるし、問題ねえ。殺しは重罪だ。捕まれば、お前も俺と同じ運命をたどるか殺される。お前の事…オレが守ってやるよ、大陸一の剣はまだなまってねえと思うぜ」
裸のまま男は臆面もなく、俺の目の前に立つ。
ガラスの様だった瞳には色が蘇り、綺麗で妖艶とだけ映った顔も表情が戻り、元々の性質なのか、挑発するような人の悪そうな顔つきに映る。先ほどとは、別人だ。
綺麗な顔は真剣だが、どこか反応を楽しむような口調でもあった。
大陸一の剣士…ガイザック・スネイク。
一太刀振ってケイルの剣を折って、使い物にならなくしてしまった。
「政府は、高位の呪術師も抱えている、オマエの居場所なんか直ぐに知られンぜ。いや、もう軍が向かってるかもしれねえな。のこのこ一人でここを出て行けば、まあすぐに捕まるな」
妖艶だった表情は既に消えて、百戦錬磨の男の眼差しに俺は怯んだ。
確かに、この男のいうとおりなのだろう。
「体液…でいいのか?」
確認のように再度男に問いかけた。
伝説の男は頷き、俺に腕を差し出した。
「オレは、ガイザック・スネイク。宜しくな、ご主人様」
どこか人をからかうような口調に、惑わされながらもその手を握り返した。
「全然敬っているようには聞こえないンだけど……」
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