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なんで
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『今日ぐらいはうちに帰ってらっしゃい、御飯も豪華にしてお父さんも待ってるわよ。
あ、綾君と一緒なら一緒に来たら?』
「あ、綾は出かけてる…」
『まぁそう!じゃあ一人なの?なら早くいらっしゃい』
「分かっ………」
了承の言葉を呟こうとした、その時。
泣くほどに会いたかった人の、匂いがした。
手に持っていたスマホを後ろから取られ、振り返る。
「すいません、綾です。……えぇ、さっき帰ってきたんです。
あっ、分かりました、では色々準備があるので、三時間後にそちらへ向かいます、はい、では」
「あ、や………」
何やら話が進められていたが、その内容は知らない。
電話を切り、スマホをこちらに返す。
「瑞貴」
「っ、なんだよ……なんで、帰って来たんだよ」
「いや、流石に帰ってくるよ…。あれ、瑞貴泣いてたの?」
「泣いてなんかないっ!」
頬を両手で包まれると、上を向かされる。綾の表情は悲しそうだった。
手の温かさに思わず涙が出そうになる。あれほど泣いたのに。
「瑞貴、俺の目見て言ってよ」
「やだっ、止めろ……」
「瑞貴、こっち向いて」
「っ………」
優しい声で名前を呼ばれ、胸が潰れそうになる。
俺の事もう好きじゃないなら呼ばないでくれ。
俺の事なんとも思ってないなら、優しくしないでくれよ。
「瑞貴」
「……なんで、なんで優しくするんだよ!!俺の事好きじゃないなら、もう構わないでくれ!
これ以上、俺の事振り回さないでよ!これ以上……寂しい思いはしたくない……っ」
ボロボロとこぼれ落ちる雫。目の前の景色が歪み、綾の顔も歪んでいく。
「瑞貴」
鼻いっぱいに香る、綾の匂い。抱きしめられたと分かるには、数秒。
押し返そうとしても、強く抱きしめられて動けない。
「俺は瑞貴の事好きだよ。ずっと好き。……だからそんな事言わないでよ」
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