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ランチタイムside旭秀治
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気まずい静寂を気取った音楽が僕たちの間で演奏される。タイトルがあるとするならばきっと無音だろう。
まるで地球から切り離されてしまったみたいに、僕らの近くに音は存在しなかった。呼吸音すらかき消すほどの重みを増した沈黙に、涙が滲みそうになる。
僕の馬鹿。僕が話下手なせいで吉岡君が気まずそうにしてるじゃないか。こんなんじゃ友達失格だ。ほら、今も見る場所に困って僕のお弁当を。
そこまで考えて、ふとひらめいた。
「この卵焼き欲しい?」
記憶を喪失したようにぼーっとしている吉岡君に向かってこう尋ねたのだ。
「はあっ?」
吉岡君はあっけにとられた声をあげた。本気で驚いているみたいで、僕の読みはあっさりと外れていたみたいだ。
「べっ別に欲しくて見てたんじゃねえぞ!」
「そっそう?ごめんね………いるわけないよね………」
少し落ち込んで声音のトーンを落としていく。うん、自惚れすぎちゃったかな?僕みたいな下等生物が食すお弁当なんて触りたくもないよね………。
ネガティブの海に溺れる僕に、吉岡君は眉を寄せる。そうして何か言いたそうにもごもご口の中で声にならない声を囁く。それが単語になって出てきたのに結構な時間がかかった。
「………ぶっちゃけ、欲しい」
から、くれよ。
呻くように催促した吉岡君。僕が変なことを言ったから、きっとフォローしてくれたんだ。ごめんね。欲しいわけないのに………。
でも、やっとまともなコミュニケーションが取れた僕は、ほっと胸をなでおろしながら卵焼きを箸で摘まんだ。
結構今日のは上手く巻けた気がする。砂糖と塩を間違えたりはしてないから安心してほしい。たぶん………。
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