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ハッとして辰夜と顔を見合わせ、リオンの部屋に向かってダッと駆け出す。どうにも胸騒ぎすんのは、さっきの悲鳴がリオンの声に似てたからだ。
辰夜もそう思ったんだろうか? 黙ったままオレの後ろについて来る。
真夜中の真っ暗なアパートに、次々と灯りが点きだした。外廊下をバタバタ走りながら、リオンの部屋の窓からも明かりが漏れてんのが見える。
「リオン!」
大声で怒鳴りながら、ドンドンと錆びた鉄扉を叩く。
昨日と違い、オレをたしなめる声もねぇ。
「リオン、出て来い!」
ドンドンドンドン。ガァン!
数回ドアを叩いた後、苛立ちをぶつけるように蹴った。けど、そんだけやってもリオンは顔を出さねぇ。
灯りは点いてんのに、どうなってんだ? メール見たよな? もしかして、具合悪くなって倒れてんのか? それともやっぱ、さっきの悲鳴に関係が?
さらにドアを叩こうと拳を振り上げると、横から辰夜に制された。
「しっ」
人差し指を立てて注意され、黙ったまま耳を澄ます。
「ん、んー、んー、んんーっ」
くぐもった声が聞こえたのは、その時だった。
「リオンッ!?」
焦ってドアノブを引っ張っても、当たり前だけど開かねぇ。
ドンッ、と体当たりしても無理で、ますます焦る。
「んっ、んんんっ」
再び聞こえる、くぐもった声。間違いなくドアの向こうから聞こえてると分かって、鳥肌が立った。
横からぐいっと腕を引かれ、弾けるように辰夜を振り向く。
「裏に回ろう」
弁護士センセーが言ったのは、そんな短いセリフだった。
階段下とブロック塀との狭い隙間を苦労してくぐり、草ぼうぼうの裏庭に出る。
ベランダなんてシャレたモンはついてなくて、掃き出し窓のすぐ外には洗濯機が置かれてた。
リオンの部屋はどこだっけ? 考えながら近寄ると、窓にハンガーがいっぱい掛かってて、昨日のままだとすぐに分かる。
「窓から、嵩さん」
そんな物騒なことを言いながら、素早く周りを見回す辰夜。
掃き出し窓のガラスを破れってか? 日頃のインテリめいた穏やかさが、ウソみてーに大胆だ。
「ちゃんと弁護してくれんだろーな?」
そんな場合じゃねーのに、ふっと笑みが漏れる。胡散臭ぇ心理カウンセラー弁護士ホストを、頼もしく感じるとか我ながら末期だ。
窓の外にかかってた、古ぼけた物干しざおを引っ掴み、勢いをつけて窓を突くと、強化ガラスなんかじゃなかったらしい。ガシャーンと派手な音を立てて、ガラス片が飛び散った。
「リオン!」
物干しざおを掴んだまま、割れた穴に手ぇ突っ込んでクレセント錠を開ける。
そうして強引に踏み込んだオレが見たモノは、布団に押し倒されてるリオンと、それを2人がかりで押さえつけてる男だった。
カッと目の前が赤くなった気がすんのは、頭に血が上ったからだろうか?
「てめぇっ!」
掴んだままの物干しざおを振り回し、近い方の男をぶん殴る。ガツンとサオに衝撃が走ったけど、気にしてるような余裕はねぇ。
遅ればせながら、もう片方の男が立ち上がるけど、それよりオレの方が速ぇ。腹をめがけてサオで突き、尻もちついたとこに振り下ろす。ゴツン。鈍い音と共に、肘まで震動が伝わった。
先に殴った方を振り向くと、悪態つきながら起き上がろうとしてて、慌ててもっかいぶち殴る。
「リオン君! 無事?」
辰夜の声、続いて「ううっ」とリオンのむせび泣きを聞いたのは、立ち回りが終わってからだった。
油断なく男たちを見張りながら、布団の方に目を向ける。半脱ぎになったパジャマ、乱された髪、不安げに泣く様子に、訳もなく怒りが湧き上がる。
そのリオンを緩く抱き締め、「もう大丈夫だよ」って背中をさすってやってんのは辰夜で――。なんでだよ、ってモヤモヤが強くなって、「くそっ」と悪態をつくしかなかった。
「おい」
我ながら、不機嫌な声が出たと思う。
怒鳴られると思ってんのか、それともさっきのショックのせいか、リオンがびくっと肩を揺らした。
「嵩さん、ちょっと」
辰夜にたしなめられ、ちっ、と舌打ちを1つする。
なんでオレが責めらんなきゃなんねーんだ? 大立ち回りやらせといて、「さすがですね」とか、お世辞の1つも言えっつの。モヤモヤしてムカッとする。
オレの方をちらっとも見ねぇ、リオンの態度にもムカついた。
アパートの住人から110番通報があったらしく、警察が来たのはそれから間もなくのことだった。
警察への説明は、全部弁護士センセーがやってくれた。
辰夜の胸元には黄金のひまわりバッジが光ってて、いつの間に着けたんだって、手際の良さに感心する。
同じホストなのに、オレと辰夜とじゃ信頼感が違うらしい。
「個別にお話を伺いたいのですが」
オレと辰夜とを見比べながら話を聞く、巡査の目つきが既に違う。一応丁寧な態度は取ってくれたけど、それすら弁護士って肩書きの威光の影響だなと思った。
リオンの話によると、オレがぶちのめした男2人は、借金取りだったみてーだ。そのうちの1人はリオンに金を貸し付けた本人で、「体で払え」っつったヤツだったらしい。
『リオン君狙いじゃないのー?』
昨日、女に言われた言葉が頭に浮かんだのは勿論のことだ。
「嵩、さんが、助けてくれまし、た」
たどたどしく巡査に説明するのを聞いて、腹の奥が熱くなる。くすぶってた男たちへの怒りが、じわじわ再燃しそうだった。
こんな面倒臭ぇことに、頭突っ込むんじゃなかった。
「身分証明になるもの、お持ちですか?」
胡散臭ぇと思われてそうな、巡査の目つきにもイラッとするし、免許証見せなきゃいけねーのにもイラッとする。
「あの、ありがとう、ございました」
ぼそぼそした声で礼を言う、リオンと目が合わねぇのにもイラついた。
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