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週末は新規の客が多くなる。
勿論平日にだって街頭キャッチはやるし、逆ナンされりゃそれを利用して店に誘ったりもするけど、やっぱどうしても、週末の方が成果があった。
街頭キャッチは新人の仕事って店も多いけど、うちの店ではそういう区別は特にねぇ。オレだってやるし、史樹もやる。悠汰なんか特にうまい。
うまいのはいーけど、行ったっきり掃除の時間になっても帰って来やしねーから、たまにオーナーに怒られてたりもする。
逆にキャッチが苦手なのは、リオンだ。
無視されたり「いらない」ってあしらわれたりがイヤっつーより、そもそも声かけるとこから下手過ぎる。
まあ、最初から戦力に数えてねーから、今のとこはまだいいけどな。
待機所のソファに座ってると、黒服の1人が顔を見せた。
「7番テーブル、初回お願いします」
「おー」
うなずいて、リオンと共に立ち上がる。
初回っつーのは、新規客の来店1回目のことだ。どこの店でも大概、この初回は安価で飲み放題とかのサービスになる。
店によって値段設定は色々だけど、うちの店だと2時間飲み放題で3000円。飲み放題っつっても、安い焼酎ベースのみで、水割りソーダ割りジュース割りのバリエーションが選べる程度だ。
シャンパン入れるっつったら、初回客でもさすがに別料金になる。ホストの指名も別料金。
その代わり、初回客にはホストみんなが名刺を持って挨拶に行く。挨拶された中で、気に入ったキャストがいれば指名してもいいし、送り指名なら無料だ。
送り指名っつーのは会計した後、店の外まで見送りしてくれるホストを選ぶ指名のことで、それを利用して次回の来店を促してもいいし、連絡先交換したり、口説いたり、まあ色々だ。
送り指名を貰えりゃ、次回の来店時に指名を貰える比率も上がる。そうすりゃ、そのまま指名客1名追加ってことになる訳だから、初回客への接待は、どのホストにとっても重要だった。
1人当たりの持ち時間は、せいぜい10分から15分。その間に、どんだけ好感度を上げ、自分を印象付けられるかが勝負だ。
「お前も、もうちょっと喋れるようになれよ?」
リオンにぼそっと注意しながら、初回客の待つ7番テーブルに向かう。
みんながみんなって訳じゃねーけど、初回の客は大体、2人とか3人で来るのが多い。
中には初回から、1人で堂々と接待受ける猛者もいるけど、そういうのは大抵よその店の常連か、初回荒らしだ。
いくら初回料金が安いからって、店を変えて何度も初回に行くような客は、大体分かる。妙に場馴れした雰囲気があれば、他店の常連だろうってのも分かる。
勿論、純粋に初めての来店で1人だけってのもいるけどな。
7番テーブルの客も、1人だった。
ちょっと居心地悪そうにしてて、あんま場馴れしてる風じゃねぇ。女子大生か、卒業したばっかの社会人か、20代前半くらいに見える。少なくとも、水商売の嬢ではなさそうだ。
そんな女が、なんで1人で?
客の値踏みをしながらテーブルに寄り、名刺を取り出して挨拶する。
「こんばんは、お席失礼します」
声を掛けて座るのは、初回客の隣じゃなくて、テーブルを挟んで向かい側になる丸椅子だ。
ソファに座れるのは、指名を貰った担当だけ。初回の場合は勿論担当がいねー訳だから、どのキャストも全員丸椅子に座ることになる。
「失礼します」
オレの後に続いて、ぺこりと頭を下げるリオン。そのリオンが丸椅子に座ろうとしたところで――。
「リオリン」
ソファに座る初回客が、リオンをまっすぐ見て言った。
「リオリン……?」
って何だ? 知り合いか?
呼ばれた本人に目をやると、リオンは椅子に座ろうとした中途半端な中腰のままで、目も口もデカデカと開けて、目の前の客を見てる。
ひう、と息を呑むリオン。
息しろ、とツッコむ暇もなかった。
「サ、キ……?」
客の名前らしきものを口にして、硬直したリオンが、そのまま後ろにズドーンと倒れ込む。
「おい」
慌てて声を掛けると、「ひぃっ」って悲鳴を上げられた。
そりゃ、顔見知りが店に来たら気まずいことこの上ねーけど、いくら何でも驚き過ぎだろ。客の方も、不機嫌そうだ。
「お化け見るみたいな目で見ないでよ」
ぷんっと頬を膨らませて怒ってるトコ見ると、どうも力関係は、リオンの方が下みてーだ。
ようやく起き上がったリオンはっつーと、動揺がまだ収まんねーらしい。
「な、な、な、な、なんでここにっ?」
訊きながら、盛大にドモってる。
一体どういう関係なのか、さっぱり分かんなくてモヤッとした。
「探偵さんに頼んで、探して貰ったに決まってるでしょ」
って、客が言ってんのにもモヤッとした。
探偵、って。耳慣れねぇ職業にモヤモヤが募る。そんな手段を取ってまで、リオンを探して――どうするつもりなんだろう?
新手の借金取り? それともストーカー? 元カノ?
「……取り敢えず、座れば?」
フォローを入れると、2人はハッとしたように顔を見合わせ、大人しく席についた。
「リオリンはこっち」
丸椅子に座ろうとしたリオンに、客の女が隣に座るようソファを叩く。
「ええっ、でもっ」
動揺して、ぶんぶん顔を横に振るリオン。
女の横に、ニヤニヤいそいそ座るようなヤツじゃねーのはいいけど、システム的に見過ごせねぇ。
「あの、それは場内指名ってことでいーの? 指名料ついちまうんだけど」
「場内?」
見かねて声を掛けると、客の女がオレの方に目を向ける。
「場内指名っつーのは……」
そう説明しようとしたとき、黒服が席に来て、「嵩さん」ってオレを呼んだ。
「10番テーブル、ご指名です」
「ああ……」
うなずいて立ち上がる。
正直言うと、一瞬迷った。不慣れな客と不慣れな新人、訳アリっぽい2人をこの場に残すのがちょっと不安だ。
それは指導役としてのアレであって、別に気になるって訳じゃねぇ。気になるって訳じゃねーけど、とにかく2人きりにすんのはマズイと思った。
ただ、自分の指名客を放置して、オレが関わる話でもねぇ。
「場内についての説明と、フォロー頼む」
黒服の肩を叩き、後輩の方をちらっと見ると、リオンは眉を下げてこっちを見てて、縋られてるみてーでドキッとした。
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