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「よお、嵩。起きたか? お前、店で酔い潰れんのやめろよなー!」
カラッと笑いながら悠汰に言われ、店でか、と思った。悠汰はこういうことでウソつくヤツじゃねぇし、本当なんだろう……多分。
「マジか、何も覚えてねーわ」
はあ、とため息をつきながら、ソファに座り直して頭を抱える。
「やっぱりか。途中からやけにハイだと思った。愛想いいお前なんか、不気味でしかねーもんな」
陽気に笑いながら、何気にヒデェこと言われてぐさっと胸に突き刺さる。
怒らせようとしてんのか、単に何も考えてねーのか判断に困るとこだけど、どっちみち言い返す権利はなさそうだった。
この間も醜態晒したばっかだし、余計に気まずい。
リオンに手間かけさせたっつーのにも、何か釈然としなかった。
「客から聞いたけど、電話してくれたんだって? ワリーな、サンキュー」
率直に礼を言うと、リオンは悠汰の後ろから、すげー小さい声で、「いえ……」って答えた。
人が謝ってんのに、顔くらい見せろよな。悠汰の背中に隠れるようにしてて、怯えてるみてーでモヤッとする。
そりゃ……色々あったかも知んねーけど、もう終わったことだし。今更その態度はねぇだろう。
つーか、なんで目ェ合わさねーんだ?
「まあ、座れよ」
ソファに座るよう促しても、リオンはキョドって首振って、悠汰と一緒に床にぺたんと座り込んだ。
何だソレ?
悠汰が、何か言いたげにオレを見てんのにもムカついた。
けどオレだって、いきなり胸ぐら掴み上げて「舐めてんのか」とか言ったりする程、短気じゃねぇ。
「あ、そういやリオリン、昨日のあの子、いつ帰るって?」
と、悠汰がわざとらしく話題を変えるのに、乗ってやる程度の理性もあった。
リオリン、って呼び名にはやっぱちょっとモヤッとする。
「リオリンじゃない、です」
悠汰に言い返す、リオンの口調にもモヤッとする。仲いいじゃん、とからかうような気分にはなれなくて、黙ってリオンの顔を見つめる。
「お前こそ、アフターはよかったのか、リオン?」
尋ねる声が、自分でもちょっと低くなったとは思ったけど、面白くねえんだから仕方ねぇ。
ここにいて、しかも夜にオレの客にフォローまで入れてたってことは、多分枕やったりはしなかったんだろう。アフターだって小1時間で終わったのかも知んねぇ。けど、だからって「初アフターだな」なんて祝える気分じゃなかった。
けど意外にも、リオンは不思議そうに首をかしげた。
「えっ、アフター?」
「約束したんじゃねーのかよ、Oホテル」
「おっ……あれは……」
ぶんぶんと顔を振り、リオンがじわーっと赤くなる。
そんでも、やっぱり悠汰の後ろにいんのには変わりなくて、ひくっと眉間にしわが寄った。
そこに割り込んだのは、悠汰の能天気な声だ。
「あの子、イトコなんだってよ。なぁ、リオリン?」
「リオリンは、やめてください、って……」
悠汰に言い返しながら、リオンの視線がちらっとオレに向けられる。
「イトコ?」
「そーそ。その話、クローズの後のミーティングでもしてたじゃん。つっても、お前潰れてたっけ」
ぎゃはは、と笑われ、「うるせー」って悪態つきながら、頭を押さえて記憶を探る。けどやっぱ、ミーティングした覚えすらなくて、何も思い出せなかった。
「せっかくリオンが、またウコン買って来てくれたのになー?」
リオンの肩に馴れ馴れしく腕を回し、悠汰が陽気に笑う。
「ウコン、って」
脳裏にあの茶髪白衣の、大袈裟に驚く様子がパッと思い浮かび、一気に悪酔いしたみてーな気分になった。
記憶なくなったの、どう考えてもそのウコンもどきのせいじゃねーか? 勘弁してくれ。
そりゃ、胃のムカつきなんかは一切ねーけど、こんな副作用有り得ねぇ。
そんでも話してる内に、ぼんやり思い出したこともある。
「そういや昨日は珍しく、指名客被ったんだっけ」
売れっ子の史樹や悠汰辺りだと、1度に何組も被って、テーブル回りに苦労したりもザラだけど、オレはそこまで売れっ子じゃねーし、客が被るなんて滅多になかった。
滅多にねぇから、回し方にも慣れてねぇ。
客の方も被りに慣れてねーから、対抗意識を燃やしたらしい。さすがにシャンコの応酬みてーな、美味い状況にはなんなかったけど、駆け付け一杯の応酬にはなった。
途中から「水にしてくれ」つったような気がするけど、ホントにそうして貰えたかどうかは確かじゃねぇ。
水飲んだ記憶はあるけど、1回だけかも。
ともかく、あっちで「ぐーいぐい」、こっちで「ぐーいぐい」、しまいには仲間のヘルプたちも悪乗りして――。
「お前、『この後アフターだぜええっ』って大声で言うんだもん。そりゃ、姫たちも潰そうとするだろ」
悠汰に呆れたように言われ、それも覚えてなくて、マジか、と唸った。
接客中の相手に、他の客とのアフターなんかほのめかしたら、そりゃ怒られて当然だ。
機嫌悪くなるだけならいいけど、「今度は自分も」って言われるとウゼェ。それよりも、切られて店に来なくなられんのは、ウゼェを通り越してダメージがデケェ。
「やっべ……」
手遅れになる前にフォロー入れねぇと。
慌ててケータイを取り出し、記憶をたどりながら、昨日の被り客の名前を探す。
正直、誰と誰だったかよく覚えてなかったけど、失くなったと思った記憶はホントには失くなってなくて、アドレス帳見てる内に思い出せてよかった。
リオンとのあの夜の記憶も――、いや。
ギュッと目をつぶり、余計な考えを頭から追い出す。リオンはやっぱ、悠汰の背中から出てくる様子はねぇようで、2人して床に座り込んだままだった。
ブゥンとケータイのマナー音が鳴ったのは、その時だ。
「うおっ、うわっ」
バカみてーに慌てながら、リオンが自分のケータイを取り出す。
「サキ……何?」
ケータイに耳を押し当てながら、オレらにぺこっと頭を下げ、リビングから出て行くリオン。
あれはあの、イトコだっつー例の客か? 別に出て行かなくてもいいだろうに、オレらに聞かれたくねぇ話でもあんのかよ?
モヤッとしつつ、リビングから出て行くリオンの背中を睨んで見送る。
パタンとドアが閉まったのと、「なあ」と悠汰が話しかけてきたのと、ほぼ同時だった。
「お前さあ、昨日リオンに店ん中でキスしたの、覚えてっか?」
一瞬、言ってる意味が分かんなくて、頭ん中が真っ白になる。
「……はあっ!?」
思わずガタッと立ち上がるけど、ウソを言ってるような雰囲気じゃねぇ。
「泣かすなよ」
ぼそっと告げられて、手のひらで口元を覆う。保護者かよ、とツッコむような余裕はなくて、「ああ……」と唸るしかできなかった。
(cast and lady・終)
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