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最近、あんまミスしなくなってたのに、今日はやたらと失敗が多くて、閉店後のミーティングで怒られた。
「今日はどうしたの? オンオフはきちっとしないと、いつまで経っても一人前になれないよ!」
女オーナーにビシッと叱られ、「すみません」って頭を下げる。
オーダーミスも多かったし、灰皿の片付け忘れも多かった。ヘルプに入った席で、姫様を楽しませることもできなくて、「どーしたの?」って逆に心配されたりもした。
シャンパンコールだって、最近は詰まらなくなって来たのに、今日はダメダメで散々だった。
「集中しろ」って嵩さんにも注意されたけど、気を抜くと思考の海に沈んでしまう。
何も考えてない訳じゃないんだけど、仕事以外のこと考えてるのは余計に悪い。
言い訳もできなくて、ひたすら反省するしかなかった。
ただ、反省したからって、それで集中力が戻るって訳でもない。
ミーティング後、悠汰君たちに誘われてラーメン食べに行った先でも、ぼうっとしちゃうのは止められなかった。
「オレは帰る」
って、嵩さんがラーメンに来なかったから、今どうしてるんだろうって、それも気になる。
嵩さんがどこに住んでるのかも知らないし、本名も知らない。
黒夢さんが呼んでた「タカユキ」って、嵩さんの前の源氏名なのかな? それとも本名なんだろうか?
ラーメンを食べる手を止めて、丼に向かってため息をつく。
「おーいリオン、聞いてるかぁ?」
悠汰君にドシッとヒジ打ちされ、「うえ……?」って顔を上げるとみんながオレの方を見てて、何だかそれも気まずかった。
悠汰君たちは、嵩さんの過去とか、気にならないんだろうか? オレだけ? オレがこんなに気にしてるのは、やっぱ、片思いしてるから?
「お前、まだあのこと気にしてんのかよ?」
悠汰君に呆れたように小突かれて、「うん……」って沈んだ声でうなずく。
みんながじっと見守る中、悠汰君は「そうかー」って考え込むように腕組みして、それから明るい声を出した。
「じゃあさ、いっぺん行ってみたらいーんじゃねぇ?」
って。
「行、く?」
首をかしげるオレをよそに、腕時計を見て「何時からかなー」と呟いてる悠汰君。
どこに行けっていうのかと思ったら、黒夢さんの働くホストクラブ、武蔵に行けってことだったみたい。
「どうせ二部営業なんだろー? だったら、余裕で潜入できんじゃん」
「せ、潜、入?」
潜入って、他店の偵察に行けってことなんだろうか? それはホストとして? それともお客として、なの、か?
「じゃあ、さっそく寮で計画練ろうぜ!」
ラーメンのつゆをぐびっと飲み干し、悠汰君がガタンと席を立つ。
他のみんなは「ほどほどにな」なんて呆れてたように笑ってたけど、反対意見はないみたいだった。
「え、ちょ、待って……」
慌てて残りのラーメンを掻き込み、席を立った悠汰君を追い駆ける。
店を出ると、悠汰君はケータイを耳に当て、「もしもし、姫~?」なんて誰かに電話してて、話しかけることはできなかった。
「頼みてぇことがあるんだけど~。ええ~、話聞いてくれよ~」
明るい声で電話しながら、夜道を早足で歩いてく悠汰君。一体何をしようっていうんだろう? ホントに武蔵に潜入するの?
訊きたいけど、姫様との会話を遮るのはタブーだし、マナー違反はできない。
悠汰君の斜め後ろを歩きつつ、通話が終わるのをハラハラしながら見守ってると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「まあ、諦めろ」
苦笑する先輩ホストや、それにうなずいてるバーテンダー。
「そうそう、それに確かめるってのも悪い事じゃねーぞ」
「まあ潜入はどうかと思うけどな」
黒服さんたちも交えて、数人でわいわいと夜道を歩く。同じ寮に住むスタッフ同士、こんな風に気安く話せる環境なのは、結構珍しいみたい。
他店だと、もっとドライだったり、ギスギスしてたりもするんだって。
オレは寮住まいじゃないけど、何となく誘われるまま、寮に泊まることも増えて来た。
借金取りのこともあって、迷惑なんじゃないかって最初は遠慮してたけど、今のところトラブルとかは起きてない。
寮も店も、居心地いい。
仕事には厳しいし、売上のノルマは勿論あるし、ホストの中でだって競争はあるんだけど、それでも仕事が終わった後は、こんな風に笑い合える。
どこのホストクラブもそうなんだって思ってたけど、やっぱりみんなの言う通り、ギスギスだってあるのかな?
武蔵はどうなんだろう?
シャンパンコールの大合唱とか、掛け合いとか、チームワーク大事だって思うけど……それよりも売り上げ重視だったりするのかな?
嵩さんと黒夢さんは、最初からギスギスだったんだろうか? でも黒夢さんの態度見ると、仲悪そうには見えないし、よく分かんない。
それを知りたいって思うのは、悪いコト?
ぼうっと考えながら、みんなの後について夜道を歩く。
ホスクラやキャバクラはとうに営業を終えた時間でも、カラオケや居酒屋、ファストフードとかはまだまだ開いてて、ネオンが街を照らしてる。
「リオン、今日も寮に来いよな」
電話を終えたらしい悠汰君が、走って来てオレの肩に腕を回した。
「うちの姫様も、協力してくれるってさ」
ニカッと笑いながらサムズアップされ、どうしようってちょっと迷う。
何を協力してくれるのか、何がこの後起きるのか、さっぱり分かんなくて不安しかない。
武蔵の黒夢さんに会いに行けっていう勧めが、正しいのかどうかも分かんない。
ただ……嵩さんはいい顔しないだろうなって、考えるまでもなく予想がついた。
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