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結局行きたいところが思いつかなくて、普通に映画を観に行った。その後、これからどうしようかという話になった時、ユキから『そういえば、マスターのお見舞い行かなくていいのか?』と気付かされた。
病院に向かいながら、“お見舞い”という文字をすっかり忘れていた俺は、『さすがユキ、よく気が付くな』と感心(と感謝)していた。
病院から出ると昼飯時で、俺の希望で寿司を食べに行くことにした。俺は回ってるやつでいいと言ったのに、ユキは「俺も食べたいから」と言って、わざわざ高い寿司屋に連れて行ってくれた。
寿司なんて久々なうえに、高級寿司だ。元々美味い寿司がなおさら美味く感じた。飯は一緒に食う人によっても変わるって言うから、楽しくいられる相手と一緒に来られてよかったなと思った。
「あー、あんなうめえもん、まじ久々に食ったわ。まじでありがとなユキ。ほんとに全部奢ってもらっちゃったし」
寿司屋から出て歩き、俺は腹を撫でながら言う。半分なら(頑張れば)出せると言ったものの、あいつはそんなこといいからと、男らしく全額払ってくれた。
「気にすんなよ、らしくないな」
そう言って冗談めかして笑うのにつられて、俺も小さく笑う。
さっき店で、ウン万円の会計をスパッと支払った彼を見て、こいつに惚れる女の気持ちが分かった気がした。
「いや、でも正直、あんなにいくとは思わなかったけどなあ。お前、この世の終わりみたいに食ってんじゃねえよ」
ユキにそう言って笑われ、俺も反論する。
「しょうがねえよ、あんなにうまいんだから。まじで一生食えねえかもしんねえし、俺も気合い入れて食ったわ」
「はは、それでこそお前だな」
会話しながら、何となくお互いにマンションを目指して歩いていた。
なんかすることねえかな、と考えていた時に、俺の頭にある考えが浮かんだ。
「あ、スイーツでも食いに行く?」
「え?」
「いや、食後に甘いもん食いたいかなと思って。お前に比べたら大したことねえけど、俺奢るし」
そう言ったら、ぽかんとしていたあいつが笑い出したので俺はカチンときた。
「てめ、何で笑ってんだよ」
「ごめん……いや、お前に“スイーツ”って単語似合わないなあと思って」
そんなことを言われ、急に恥ずかしくなった俺は軽く蹴りを入れた。
その後、「京介が奢ってくれるなんて珍しいし、お言葉に甘えるよ」と言われたので、俺はまた蹴りを入れながら二人でスイーツ食べ放題の店に向かった。
そして今。
俺は、あんなことを気軽に口走った自分を猛烈に後悔していた。
店が近付くにつれ、男二人でスイーツなんてやっぱり止めた方が……と気付き始めたものの、自分から言い出したことだから、今さら変更することは出来なかった。
あいつはやっぱり甘いものが好きだから、女子とカップルだらけの行列の中で俺たちが浮いていても、何ら気にしていないようだった。
店に入ってからも男二人連れはなかなかいなくて、気のせいか周りの視線が気になる。
「ああうまい。なんかごめんな、お前甘いもん苦手なのに」
「いや、自分で言ったことだから」
目の前で美味しそうにケーキをぱくつくユキを眺めながら、俺は今自分が言った言葉を胸の中で懸命に繰り返していた。
こいつはすでに六個ほどスイーツを平らげているが、俺はさっき小さいビターチョコを二個ほどつまんだきり手が止まっていた。
店の中では女子の楽しそうな話し声がそこここで聞こえ、テーブルとテーブルの間を埋めるように甘い香りがそこはかとなく漂っている。
実はさっきから気になっていることがあって、それを切り出そうと俺は話しかけた。
「なあ、ていうかさあ」
「ん、何?」
「いやあの……気のせいかもしんねえんだけど、向こうのテーブルにいる女子、俺らのこと見て笑ってる気がすんだけど……」
「んん?」
俺の言葉を受け、ユキはさり気なく向こうを伺う。
俺が気になっていることは、向こうの席にいる女二人が、俺たちを見ながら何やら笑い合っていることだ。たまに目が合うと、向こうは目を伏せて話し合っている。
『こんな所に男二人で来るなんて』と馬鹿にされているんじゃないかと思い、考え過ぎかと思ったが気になる。ユキが見た時も目が合ったようで、素知らぬ顔で視線を戻すと、ケーキを口に入れる合間に呟いた。
「見てるな」
「だろ? 俺らいい大人なのに、こんなとこ来て笑われてんじゃねえかな」
俺が言うと、あいつは食べながら思案顔になって、やがて笑った。
「確かに、逆ナンしようとしてるようには見えないな」
「おい」
「ごめんごめん。考え過ぎじゃないの? 男だけの客も見かけるよ。それにスイーツ男子が流行ったくらいだし、そんなに珍しくもないだろ」
「スイーツ男子? 何だそれ」
聞き返した俺に、知らないの? という顔をしたあいつは、簡単に説明してくれた後、また続けた。
「気にすんなよ。男二人で甘いもん食ってても、変でも何でもないし。
……ああ、それか。もしかしたら喜んでんのかな」
あいつは何か思い出した顔をした。
「どういうことだよ」
「いや、会社の子が言ってただけでよく知らないんだけど、男同士でいると喜ぶ女の子がいるらしいんだよ。何だったっけ、何とか女子、って言うんだけど」
「何だよそれ。変態か?」
「変態ってお前……。聞いたとこでは、男が仲良くしてるのを見たいらしいよ。仲良くってか、ほぼデキてる状態らしいけど」
「え、ホモ見て喜ぶってことか?」
俺の直接的な言い方に面食らったあいつは、思わず苦笑してから言った。
「まあ、そんな感じらしい。でもかっこよくないとダメらしいし、俺らも喜べばいいんじゃないの?」
と適当にまとめたので、俺は思わず笑った。
そんな、まるで女として腐ってるみたいな女子のことは初めて聞いた。俺は驚きながらも、何だかすごい世界だと感心した。
「まあ、あの人たちがそうだって確信はないけどな」
そう指摘するあいつに、俺は「逆ナンよりは可能性高いな」と言って笑った。
しばらくして、あいつがおかわりしてくると言って立ち上がり、スイーツを取り囲む女子たちの中へ気後れもせずに入って行った。
金額的には高級寿司のお返しにはほとんどなってないけど、なんか楽しかったし、結果的に来て良かったな。
やつの果敢な勇姿を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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