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言うべき言葉(5/5)
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いつ切り出そうかと迷っていると、会長が声を上げた。
「チッ、…ったくお前は!」
「いでっ!痛い!」
眉間を指で強くぐりぐりされたため、痛みを訴える。急に何をするんだ、やめたまえ。
「な、何…!」
「さっきから眉間にシワ。…言いたいことがあるならさっさと言いやがれ!」
会長はイライラした様子で俺の下顎をぐわしっと掴む。
俺が驚きで何度か瞬きをしてると、会長が俺のおとがいから手を下ろした。
「先輩…」
「なんだ」
「……」
会長のこの強引さが、わりと好きになってきた。
もしかして会長の親衛隊の人も、"引っ張っていく力"を持つ会長に惹かれているんだろうか。
「…黙ってないで早く言え」
「……はい」
会長の目を見て、胸の内をさらそうと試みる。
「俺が……あの頃、完全に曲がらずにいられたのは……先輩のおかげだって、思ってる」
先輩と、出会えたから。
「先輩は……言った通りに毎日毎日うざいくらい俺に会いにきて」
「おい…!」
「毎日くだらないことばっかり話して。何故かいちごみるくの飴を置いていって。
…俺の飴役になってくれて」
そこまで言って、言葉が途切れてしまう。
これ以上会長を見ていると涙腺が緩みそうだったから、俯いた。
「先輩は、不安定な俺をほっとけなくて無理して傍にいたと思ってた。
けど最後に、俺と一緒にいて「楽しかった」って言ってくれて……だから…ほんとは、めちゃくちゃ嬉しかった」
「……」
嬉しかったんだ。ものすごく。
だから、言わないと。
「……俺も…、先輩と一緒にいて、楽しかった……!
あのときは、恥ずかしくて言えなかったけど、俺も先輩と同じ気持ちだったんです…!」
「大崎…」
「あの辛かった日々、先輩の存在があったから、頑張れた。元気をもらえた。
だから…っ、本当に本当に……ありがとう…ございました」
言えなかった想いを、全て言葉にのせて伝えた。
安堵と、何とも言えない気持ちが胸をゆっくり満たしていく。
「……大崎」
会長は俺の肩に腕を回すと、引きよせるように抱きしめてきた。
抵抗せずに身を預けていると、髪をくしゃっと撫でられて耳元で囁かれた。
「……可愛くなったな、大崎」
「…可愛くないし」
強がってないと涙が出そうだ。
……抱きしめられてから数分。
ちょっと恥ずかしくなってきたから不満を口にした。
「……先輩、離して」
「…んだよ。もう少し甘えろよ」
「嫌です」
はっきり告げると、会長は舌打ちをして離れた。
会長は屈むと落ちていたいちごみるくの飴を拾い、また俺に持たせる。
「おら。受けとりやがれ」
「……これからは会長のこと…"いちごみるく先輩"って呼ぼうかな。
俺様なのに可愛い感じで面白いし」
「何だとコラ。どうせなら名前で呼べよ」
「……先輩の名前、なんでしたっけ?」
「おい…!」
会長はショックを隠しきれず目を大きく見開く。
ほら、初めは会長のこと興味なかったし。
あんまり好きじゃないから覚えようと思わなかったんだよね。
会長は自分の胸に手をやると、物凄い気迫で自己紹介をはじめた。
「耳かっぽじって聞きやがれ。
伊坂 政司(イサカ マサシ)。"せいじ"じゃなくて"まさし"な。わかったか?」
「いさかまさし……ふっ、ゴロ悪…っ」
「てめ…っ!人がすげー気にしてることを笑うな!」
「あ、ごめんなさい」
会長のリアクションが大きくて面白い。
俺がくすくす笑ってると会長がボソッと呟いた。
「……名前で呼べよ、真琴」
「……!え、誰がいつ俺のこと名前で呼んでいいって言いました?このやろー」
「…わ…悪かった…」
「あ、ただの冗談ですから。面白いですね、政司先輩って」
俺がそう言うと、先輩が複雑な表情を浮かべた。え……何…?
「な、何か…?」
「お前、ほんとに可愛くなったな」
「はぁ…!?ふざけないでください」
可愛いって言われるのは好きじゃない。ましてや、男に。
俺がそっぽを向くと、先輩はふっと笑って俺の手を掴んだ。
「わ…っ、何…?」
「握手だ。……これからもよろしくな、真琴」
……今までムカつくと思っていた先輩の笑顔が、とびっきりかっこよく見えた。
見惚れないように目を慌ててそらす。
けど、肯定の印として、政司先輩の手をギュッと強く握り返した。
「……惚れたか?」
「俺、恋愛対象は女の子だけなので…」
「さっさと惚れちまえよ」
「自分にどれだけ自信あるんですか…」
「悪くはねぇだろ?」
先輩はそう言うと俺の髪をくしゃくしゃに撫で回す。ぐ…っ、一日に何度もそんなことされるとハゲる…!
「…兄弟揃って、人の頭撫でるの好きですね」
「はぁ!?……まじかよ。兄貴と同じにすんな」
「先生は政司先輩のこと、すごい大事に思ってましたよ?」
「……チッ」
デレた。先輩はツンデレ王子ってとこだな。
王子は凪が一番似合いそうだけど、言うならバカ王子。でもあのバカっぽさに時々癒されるときがある。
「……まさか俺の前で別の男のこと考えてるんじゃねぇよな?」
「考えてますけど?」
「否定ぐらいしやがれ。くそ、やっぱ可愛くねぇ…!」
先輩は舌打ちをすると、俺の腕を引き、生徒会室から出る。あ、あれ…?
「政司先輩、仕事は…?」
「…明日やる。明日の放課後また来い」
「…気が向けば行きますね」
「はぁ!?」
「また明日」
先輩の文句を聞き流すように背を向ける。
振り返って軽く手を振ると、小さく手を振り返してくれた。
寮へ向かう途中、いちごみるくの飴を口に放り込む。
先輩……先輩が、会長だったなんて。
会長の印象、今日でめちゃくちゃ変わったなぁ…。長沢が惚れたのも納得できる。
寮の階段をのぼり、自分の部屋へたどりつく。
鍵を開けて戸を開くと、昴と凪が笑顔で迎えてくれた。
「あ、真琴…!お帰り!」
「くそっ、西條に越された…!お帰り、真琴」
「……」
今までは、帰ってきた俺を迎えるのは暗い部屋と静寂。
明るい部屋と温かい笑顔で迎えられたことに、幸福感がぎゅっと胸をしめつけた。
思わず腕を二人の肩に回して抱き寄せる。
二人は驚いて声をあげたけど、振り払わずに受け取めてくれた。
「俺……お前らが好き。一緒にいてくれて、ありがとう…」
言えなくなる前に、言おう。
後悔する前に、伝えよう。
口内に残ってたいちごみるくの味は、とびっきり甘かった。
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