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童 5
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千景の従者になれないって分かったのに、なんで組長は千景を頼んだなんて言うんだろう。
その意味は、すぐに分かった。
次の日の朝。
呼吸困難になってからやっと初めて部屋から出してもらえて、組みんなでごはんを食べる広間へ向かった。
「澄和坊ちゃん!おはようございやす!」
「お元気そうで何よりです!」
すっと音を立てずに襖を開けると懐かしい組員の人達がにこやかに挨拶してくれて心がほっこりする。
奥へと歩みを進め上座の右手に座って待つ。
こうやってここに座るのも久しぶりだなぁ。
千景に会うのも。
正直、ちょっと怖かった。
従者にはなれないと知った千景はどう思ってるのか。
部屋で過ごした何日間の間、千景は一度も僕の部屋に顔を見せなかった。
千景のことを信じてないわけじゃないけど、そのことがすごく気がかりだ。
「澄和」
しばらく聞くことのなかった声が聞こえて、俯かせていた顔をあげる。
「千景…」
思わず体調が悪かった俺の方が大丈夫かと聞きたくなるくらい、千景の顔はひどいものだった。
目の下のクマは白い肌のせいで余計に際立っているし、心なしか少し痩せた気がする。
いかにも疲労困憊、といった感じだった。
あぁ、やっぱり、苦しめてしまった。
「千景…ごめんなさ」
「ごめん澄和」
なんで千景が謝るの。
どれだけ探しても千景が悪かったところなんて、ひとつもないのに。
「もっと早くから、昔から、澄和が苦しんでたことに気づければ。
何かが、違ったかもしれないのに」
「そんなこと…っ」
「柊に、残ってくれるんだろう?
…ほんとに、ありがとう」
ふわりと微笑んだ千景の顔は、心にぽっかりと穴の空いたようなさっきまでの表情とは違い
紛れもなく次期組長としての力強いもので。
「絶対に、俺が、澄和を守る。何があっても」
実は小さい頃からたまに少し胸が苦しくなることがあった、なんて言ってないのに。
今回の事で昔を思い返して察したのかなぁ。
そんなのに気づいてくれるのなんて千景だけだよ。
若頭が弟を守るってなんなの。普通逆だよ。
反撃も攻撃もできないかもしれないけど、防御はできる。
もしもの事があったら命を捨ててでもすぐに千景を守る覚悟なんて、とっくにできてるんだよ僕。
それでも。
僕がこころのどこかでやましくも欲しいと願っていた言葉に。
僕は、こんなことになってから初めて、涙を流した。
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