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俺は寝たフリをした。
千鶴が静かに立ち上がる気配を感じて、出かかった声を飲み込んだ。
玄関へ向かう足音と木の廊下の軋む音がして、建て付けの相変わらず悪い玄関の扉が開く音がする。
誰が来たのかは居間からでは分からない。
声も聞こえない。
俺は身体を起こして、千鶴が居間に戻って来るのを待った。
やがて、また扉の閉まる音がした。
けれど廊下の軋む音と千鶴の足音はいくら待っても聞こえてこなかった。
何処かで車が走っていく音がして、俺はもう一度畳の上に寝転んだ。
「やめるって言っただろ……」
猫達が心配そうに俺のそばまでやって来て伏せる。さっきまで間違いなく隣にいたアイツは行ってしまった。
「行ってきます」も言わないで黙って行ってしまった。
どうして止めなかったんだろうと今頃後悔して、繋げていた手のひらを空にかざして見上げた。
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