アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夜の足音5
-
資料室の扉を開けて
あのどうにも資料室らしくない部屋を通り抜けて
鉛色の扉を開けると
埃を被っている資料室の中に入った。
真っ暗な部屋のため、電気をつける場所も分からなかったが持ってきた懐中電灯を翳すと、照らした先に
光る何かを発見して
それを手にとる。
小さなリングだった。
それは、指輪のチェーンを繋いでいたリングと全く同じ形をしていた。
「あの指輪は、きっと本物だ。」
その小さなリングを手の中に
握る。取り戻せてはいないが、どこにあの指輪があるのか分かったことに安心してゆっくりと吐き出すような息を漏らす。
そして
そろそろ資料室から出ようとした時だった。
前と同じように、入ってきた側とは違う扉が
ガチャリと音をたてた。
「気のせいか。何か物音がした気がしたけど。」
何とか、資料が並べられている棚の陰へと隠れて
身を潜めているとその入ってきた人物が
手探りで何かを探している物音がしたと思ったらその音がやむ。
足音が遠のいてガチャッとドアノブに手をかけるような
音がして、安堵していた時だった。
「それで、そこに隠れているのは誰だ?」
それから暫く、奇妙な沈黙が続いた。
それに痺れを切らしたその人物の
足音が近づいてきて、目の前で立ち止まった。
「誰だ。」
念を押すように溢れる言葉の端からは
鋭さのようなものを感じる。
「ここで、何してるんだ。」
俺が身を屈めている高さへと
その人も高さを合わせて
暗闇で何も見えないはずの瞳が交じり合う感覚に囚われる。
「何も答えないつもりなら強硬手段にだって俺は出られる。もう一度だけ聞く、君は誰で。ここで何してた?」
目の前の人物を気を失わせて逃げるか。
いや、そんなことをすれば、この人は何が何でも探し出そうとするはずだ。それに、気を失わせるなんて芸当ができるとも思わない。
「………探し物を。」
「探し物?」
俺の答えた言葉を繰り返すと
その人の纏う空気が一瞬にして変わった気がする。
「もしかして、俺に会ったことある?ここで。」
質問の意図が分からず、沈黙していると
付け足すように告げられた。
「名前は________『春』であってる?」
ふと、思い出した。
ここで、会った人のことを。
久しぶりに他人の口から奏でられた
その響きが鼓膜を震わせる。
「そうだと言ったらどうしますか?」
ここで、春を名乗るのが得策なのか
それとも、今の名前を告げた方がいいのか
わかなかったけど、今はそれに合わせていた方がいい気がした。
「やっと、みつけた。」
暗闇の中、目の前の人物が確かに微笑んだ気がした。
張り詰めていた緊張の糸が一気に解けたように
肩へと頭を乗せられていた。
「……探し物っていうのは見つかったのか?」
「いえ、まだです。」
そう返してから沈黙が辺りを包み込んでいたせいか
肩にもたれかかっているその人の
細く、そして、重いため息がよく聞こえた。
「第3美術室。」
「え?」
肩にかかっていた重さがなくなったと思ったら
突然、告げられた内容に瞳を瞬かせる。
「金曜日の放課後には、大体いるから。」
それに、返答せずにいると断ると思ったのだろう
その人は矢継早に付けたすように告げた。
「たまに、来てくれるだけでいい。」
「何で、そんなに回りくどいことをするんですか。それこそ、強硬手段を取ればそんなことしなくてもいいですよね?」
「見つかりたくないのは、君も俺も一緒だからだ。」
「つまりは、一般生徒立ち入り禁止の場所に入った生徒を見逃すということですか。」
「そういうわけじゃない。強硬手段で、ここから強制的に連れ出すこともできるけど、俺も君には見つかりたくないから。」
何で……?
無断で立ちいった俺が見つかることへのデメリットはあれど、この人にそういうものはないはずなのに。
「分からなくてもいい。けど、ここで約束しなかったら強硬手段に出る。」
「その強硬手段っていうのは、例えば……風紀室に連れて行くとかですか。」
「そうなるだろうな。」
即答される答えに諦めのため息をつく。
「……分かりました。でも、見つかりたくないって言ってるのに、第3美術室で会うのは大丈夫なんですか。」
「あぁ。問題ない、それは来てくれれば分かる。」
「それで______そろそろ先輩の名前も教えてもらえますか。美術室に行ったとしても、人違いだったら嫌なので。」
「………冬威。そう言ってくれれば良い。」
こうして、この顔も知らないこの先輩との奇妙な交流が
何が“嘘”で何が“真実”なのかもわからぬまま
仮面を被り合う、かくれんぼが始まった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 195