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花火1
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「いやだっ!」
「美音。ご、ごめ……っ」
尻餅をついた矢井島に伸びた一色の手を払いのけて、一色の声も虚しく消えていき、矢井島は俺と荒谷の横をすり抜けていった。
一色はこちらに気づいたらしく
驚いたように瞳を見張っていた。
それよりも、今は矢井島を追いかけようと方向転換すると
後ろから声をかけられた。
「あの、昼間の……だよね?」
「……ひるま?」
荒谷は頭の上にクエスチョンマークを浮かび上がらせると俺に顔を向けてきたけれど、先に行ってくれるように言うと矢井島を追いかけていった。
「ど、どうしよう……。絶対に、嫌われ、た。どうしたらいいかな?………終わった」
頭を抱えて、項垂れた一色に近づくと
縋るような眼差しをしながら
涙目で告げられた。
「そういわれても_____困ります。それより、何でここにいるんですか」
「え?あぁ………ここには、毎年、来てるんだけど。……美音と会わないように、もっと早く来る予定だったんだけど。けど、来る途中で迷っちゃって今日はここに泊まる事になりそうだし、俺は今すぐにでも帰りたいけど、そうもいかなくて。……嫌われると思ったら、吐きそう。穴があるなら入りたい」
どんどんと声のトーンがだだ下がりし続ける
一色に何も言えずにいると、こっちに向かって縁側を歩く人影が見えて門川先輩でも速水先輩でもないシルエットに眉を寄せる。
「あの、もしかして誰か他に来てますか。」
「……誰か?_____あぁ、駿?うん、来てるけど」
無意識に後ずさったのを悟ったのか
一色にがしりと腕を掴まれて、離してくれそうもない。
「………に、逃げないで。俺、もうどうしたらいいか分かんない、からっ」
「とりあえず、腕を離してください。逃げませんから」
「おい、蓮治。いつまで待たせたら気が……」
一色に腕をなんとか離してもらって
安堵したその瞬間に
すぐに予想していたその人が現れた。
「よしっ!!花火始める、よ?……何これ、どういう状況?」
横の大広間の障子がスパンと開かれて、予想だにしないメンツに固まった門川先輩とこの雰囲気を察していたのだろう速水先輩がいた。
※
「うーん。なるほど、まぁ。とりあえず、花火やろっか!!」
粗方の内容をかいつまんで一色から話された
門川先輩は、開口一番、そう告げた。
「えっと……。どうゆう、こと?」
一色が助けを求めるように視線を向けてくるが
俺にはこの先輩を止めることはできないので
速水先輩にそれとなく視線を送るとため息をつきながらも、速水先輩は門川先輩へと声をかけた。
「何で、花火するんだよ。第一、矢井島が承諾しそうにないと思うが」
「まぁ、そうだけど。……じゃあ、美音ちゃんに何でこのなんだっけ、えっと、あのこの先輩が嫌いなのって聞くわけにもいかないじゃんかー」
「もう、嫌われてんだから近づかない方がいいだろ。」
「嫌われててもこの先輩は、ワンチャンもう一回仲良くなりたいわけじゃん!嫌われてるけどさ!!」
「嫌われてんのに近づくなんて、馬鹿そのものだって言ってるんだろ。全員がお前みたいなバカじゃないんだよ」
「なにぉうっ?!」
「先輩たちで喧嘩を始めないでもらえますか」
この先輩たちの、容赦のない打撃で
完全にメンタルをやられている一色を見て
少し可哀想になったが、さっきから一言も話さない人へと意識を集中させていて、上手くフォローのしようがない。
「わ、分かった。……でも、誰が美音を連れてくるの?」
完全に心を折られて、逆に強くなったのか
一色が先輩たちに尋ねると、先輩たちは俺へと視線を注ぐ。
「なんですか?」
「だって、美音ちゃんと仲良いし。この旅行に誘ったのだってあおくんを逃さないために、俺たちに来て欲しいって、言ってたから。よっぽど、好かれてるかなーって思って」
「適任者は、ここには他にいないだろ?」
「後は、荒谷くんのお日様パワーで何とかなるよ?!!」
門川先輩の謎の後押しと一色の期待に満ちた眼差しを受けて俺は矢井島の元に行くことになった。
矢井島の元へ行く道すがら
屋敷の塀に一匹の烏がとまっているのを見つけると
烏は、声をあげて鳴いて飛び去った。
「あの烏」
ぐるりと辺りを見回すがあの飛び去った烏以外に
その姿は見る影もなく、止めていた足を進めた。
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