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傾城3
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「なーんの騒ぎ?まだ、授業始まってない?」
この騒ぎの中に人垣を割って入ってきたのは
副風紀委員長だった。
「なるほどねぇ。」
副風紀委員長は、宵(よい)を一目見ると
状況をあらかた理解したのか宵(よい)から周りの生徒へと視線を向けてぐるりと見回す。
「はいはぁい。………見たところ、新入生ばかりだから一応言うけど。授業の遅刻は減点対象だよ。…………それにね遅刻も多いようだと三年の学年主任の日課のマラソンに1週間、毎朝付き合わされちゃうんだけど。………一緒に走っちゃう?」
副風紀委員長の言葉により、パラパラと散りだした
人垣が薄れつつあったけどそれでも宵(よい)を一目でも見ようとする生徒は少なくない。
「2年C組、冴羽、長田、石の宮、山下。3年A組、真綿、焚上__________。」
副風紀委員長が名前を挙げだした途端に、一斉にこの教室から自分の教室へと戻りだして人垣は一気に疎らになっていく。
「ふぅ………。それで________西方宵くん。」
「はい。」
「僕についてきて貰える?………職員室まで案内するから」
「ありがとうございま、」
宵(よい)の言葉を遮ったのは朱門が宵(よい)の腕を引っ掴んで離そうとする様子はなかった。
「…………いやだ!」
「じゃあ、一緒に行く?」
「え?」
自分から言いだしたにも関わらず朱門は
鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた顔をしていた。
「ふふ、冗談。これから授業でしょ?授業の内容教えてよ。僕が戻ってきたらそうしてくれたら助かるな。」
「俺、勉強嫌いだし」
「_____嘘だ。数学コンクール、いっつも上位なのに?………救世主(ヒーロー)からのお願い、ね?」
「………わかった。」
朱門が目を瞬かせてから頷くと
副風紀委員長の後ろを宵(よい)がついていく。
「…………さぁてと、授業始めようかしらっ_____て。」
桜崎先生が気を取り直して授業を始めようと教壇に立ったのはいいが、表情が一気に青ざめていく。
「………プリント、忘れたわ。あ、佐藤くん。ちょっと、準備室までプリントを取ってくるの手伝ってちょうだい」
「分かりました。」
桜崎先生と並んで職員室へと向かったのはいいが
一つ問題が生じた。
「それにしても、そんなに簡単に引き受けてくれるとは思わなかったわ、っ________いやぁっ!!人が死んでるっ!!」
叫び声をあげるようなことでもないだろうけれど
廊下で誰かが倒れているのだけは、確かだった。
「桜崎先生。どうしますか。この風紀委員長」
「え?………ぁ、風紀委員長だったのね。………そうね。プリントはいいから、保健室に運んであげてくれる?りっちゃんに来てもらうよう連絡しとくから」
「分かりました。」
「この分じゃ、また寝てないわね。じゃあ、ちょっと待っててちょうだい。授業にはちゃんと来るようにね!来なかったら補習とプリントが待ってるから忘れないことね。」
桜崎先生は釘を刺してから足早に準備室へと向かう。
何の因果なのか風紀委員長をまた運ぶことになったが
ずっと廊下に倒れさせたままにしておくわけにはいかないと風紀委員長を壁に寄りかからせる。
「………絆創膏?」
風紀委員長の顔に何かがついていることに気がつき、倒れた拍子に何かがついたのかと思い覗き込むと絆創膏が剥がれかけてしまっているらしかった。
「………りあ?」
覗き込むような姿勢だったため
柘榴のような仄暗い赤い瞳の奥までも見えてしまいそうだった。
徐に伸びてきた腕に顔を捉えられて
あの時と同じように壊れ物を扱うみたいに頬に触れられる。
(前と同じ、いや_________前より、もっと。酷く暗い瞳だ。)
「夏なんか、来なければいい」
睡魔のためか前のように力の限り抱きしめられるようなことはなかったが、俺の肩に頭を預けて暫くしてから規則正しい寝息が聞こえてきた。
「………………はぁ。」
俺は、この人の手を振りほどけない理由を分かっている。
端的な好きとか嫌いとかそんな理由ではないからこそ難儀だ______。
同じ赤色でなければ、どうでもいいのに。
そうある必要性も利益もない。
なのに
どうしたって思い出させるこの赤い瞳のせいだ。
優しくありたいと思ってしまうのは。
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