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罅(ひび)2
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夢を見た。
雨の日の〝最期〟の夢を__________。
久しぶりに見たその夢は、眠りを妨げるには充分で
あの日を思い出すのには充分すぎた。
「よりによって…………。」
玄関先でも聞こえるほどの雨の音を聞いていたくなくて、このまま一歩も動かずに立ち竦んでいたら、本当に立ち止まってしまう気がして俯いていた顔をあげる。
「雪さん。もう、行きます。」
「ぁ、僕も行くよ。君の隣の部屋の荒谷くんに用事があるから。だから、置いてかないで。」
雪さんが紙袋を片手に持って、靴を履くとドアノブに手をかけてから、何か思い出したかのように俺の方に振り返った。
「あぁ、そうだ。忘れてた。」
パーカーのフードを被せられ、子供にするように頭をポンポンと撫でられる。
「行こっか。」
雪さんの少し後ろを歩きながら、未だに震えている指先を握り込んでみるけど、うまくはいかない。
この震えが止まらないのは、夢のせいだろうか。
それとも、本当に寒いから?
いや、違う。それは、その理由は__________。
もしも、生徒会広報の言うことが嘘ではなく
本当に現れたのならと思ってしまうから。
本当に__________目の前に現れたのなら、俺はきっと。
雨の音だけが響く静かな雰囲気に包み込まれているためなのか別の場所へとトリップしていた意識が雪さんが急に立ち止まったことで、引き戻される。雪さんが立ち止まったその原因が寮の外にあることを窓の先を見る雪さんの視線が物語っていた。
「本当は、分かってるんだけど。…………ぁ、ごめんね。」
俺が雪さんを見ていることに気づくとすぐに、そう言って雪さんは歩き出す。視線が向けられていた窓の先、寮の入り口付近にいる黒河先生を視界の端に捉えた。同時に、黒河先生と向き合うように誰かが立っているのも見えたけれど、それが誰なのかは傘で隠れていて分からなかった。
「3階だったかな?」
エレベーター前に到着して、雪さんに尋ねられた質問に頷きながら答える。
「瑠夏に………さっきの胡散臭い底意地悪そうなのに何かされたら言ってね。お灸をすえとくから。」
「雪、さん。」
「ん?」
「本当に…………昨日、」
揶揄われたのなら違うのならいい。
でも、もしも、本当に〝いる〟のなら確かめなければ確かめて早く全てを終わらせなければいけない。なのに、うまく言葉が出てこない。
俺に似ている_____〝彼〟_____が本当にいるのか確認しなければならないのに。
「どうかし、。ちょっと、こっちにおいで。」
俺の様子を不審がった雪さんは急に焦ったような声をあげると、俺の腕を掴んで各階に設置されている休憩所に連れて行かれる。
「どうしたん、」
雪さんが口の前で人差し指を立てるその仕草を見て、俺は開いていた口を閉じた。雪さんの後ろからエレベーター前の開けた空間に視線を向けていると、静かなこの空間にチンという音が響いてすぐエレベーターの扉が開いた。
そこから出てきたのは、さっき寮の出入り口近くにいたはずの黒河先生ともう1人、さっき恐らく黒河先生と向き合っていた誰か。
「何で、今更。」
雪さんが驚いたように呟いて、その誰かを見つめていたので雪さんが向けている視線の先の男に焦点を合わせる。けれど、ワインレッドという派手な髪色をしているということだけで、見覚えがあるわけではなかった。
「野生の勘ってやつかな。外からは見えないはずなのに何でこっちに来るんだか。」
雪さんが少し苛立ったように呟いて立ち上がり深い溜息をつくと、雪さんが持っていた紙袋を手渡される。
「これ、まだ完全に乾いたわけじゃないんだけど、制服入ってるから渡しておくね。僕があの2人の相手を適当にしとくからタイミングみて部屋に戻って。じゃ、またね。」
雪さんはそう言うと、休憩所の扉を開けて出て行こうとしたみたいだけど、例のワインレッド色の髪のその男が休憩所の目の前まで来ていた。
「誰かと思えば、お久しぶりですね。もう辞めたものだと思ってました。」
「相変わらず、可愛くねーな。雪、お前に話あるんだわ。面貸せよ。」
「勿論、嫌ですよ。」
「お前、隠してんだろ。ここにいるアイツの…………〝可愛い子ちゃん〟。」
「さぁ、何のことだか。」
「なぁ。その扉の中、見てもいーよな?」
「先輩、面貸して欲しいなら、今すぐ貸してあげますよ。ただし、今じゃないと一生貸さないけど?まぁ、この扉の中にいる病人の顔を見る趣味の変態なら話す気もなくなりますけどね。」
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