アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
罅(ひび)6
-
「……………………は、っ、ハ。」
誰かが倒れていた生徒を運んで行ってから、本格的に緊張の糸が取れたのか呼吸が乱れだして、建物の外壁に背を預けて座り込みながら荒れた呼吸を繰り返していた。
「…………もう、っ、。」
何を考えても何を言っても、誤魔化そうとしても無駄だ。望んでいないのに、赤いあの光景が何度も何度も繰り返されるから。
その苦しさから逃れようとまた、胸元を握る。だけど、いつもあるはずの指輪はそこにはないのを思い出す。力の抜けた指先が何かに当たって視線だけを横にずらすと、倒れている紙袋からはみ出た赤い何かを視界に入り、一瞬、身体が硬直する。けれど、それが何なのかを理解してすぐにそれを腕の中へと収める。
このまま、お願いだから、この苦しさが消えて欲しかった。呼吸の息苦しさも他の苦しさも。
だけど、その思いとは反比例して呼吸の荒さが激しくなっていく。
「……………………れ。__________は、。」
雨の音に混じって、パキッと枝が折れたような音が鳴った。近くに誰かが来た気配がしたけれど、その誰かを確認する余裕はなかった。
これ以上、近くに来られる前に逃げた方がいいに決まってる。でも、今の状態じゃ到底、無理だ。
そばに寄ってきた人の手が肩に触れる。でも、雨の中を歩いてきたとは思えないほどにその手が熱くて、ほんの僅か苦しさが和らいだ気がした。
膝の上で顔を俯けたまま視線だけを上に上げても、目の前の人は誰なのか分からなかった。でも、目の前の人の首から下げられている鈍く光る何かから目を離すことができずに、ずっと、赤いジャージの隙間から銀色のソレを眺め続けていた。
「いつものか。」
いつも………………?
何でそんなことを言うのか分からない。
でも、それを口にするほどの体力は残っていなかった。
「何でこんな時に。薬は?飲んでないのか__________白(きよ)。」
けれど、その疑問はすぐに目の前にいる人によって解消された。
白(きよ)。
副風紀委員長がそう呼ばれていたのを思い出す。
俺とあの副風紀委員長は身長がかなり違うのに、この目の前にいる人は何故か人違いをしている。
このまま折りを見て、別人だと気づかれる前にいなくならなければと思っていたその考えは、不意に視界に入ってくる生徒会のバッジと黒髪を視界に入れることで払拭された。
「__________っ、。」
この周辺に、会長(このひと)の親衛隊(ファン)がいるとは分かっていた。けれど、本人がいるなんて誰が思うだろうか。
昨日のことが忘れられないのか、一気に身体が硬直する。背中に壁があるのは分かっていたけれど、身体が無意識に目の前の人から逃げようとでもしてるのか、壁に背中を隙間もないほどぴったりとくっつける。
人一人分もない距離ではあるけれど、目深く被った帽子と顔の半分を覆い隠している赤いジャージのおかげで会長(このひと)にはバレてはいないようだ。それでも、時間の問題だと思って、呼吸が整っていないのも構わないと立ち上がろうとしたその時、急に手を掴まれる。
「この手の血、どうした_____?」
その行動に驚いて、その手を弾くと
一瞬、驚いた表情をした後に、すぐに何の色も映さない表情へと変わる。
「お前の反応も、まぁ、同感だが。ここで、誰にも気づかれないで倒れるよりはマシだろ。」
ポタリ__________。
会長(めのまえのひと)の指先から雨ではない何かが滴り落ちる。
赤色_______________?
「………………っ、ぁ。」
瞬間。
強い強い警報が頭の中に、響く。
「………………ぐっ。」
誤作動でも起こしているみたいに、割れんばかりに頭の中に響き渡るその音は、鳴りやまる気配はない。
俺は、今__________。
何で、息ができてない?
さっきまでは、ここまでじゃなかった。
なのに。
「__________っ、………。」
喉を押さえながら、顔を地面に向けたまま呼吸を繰り返すけれど、どうしても肺に呼吸が入ってこない。
それでも、端末を手に取った会長がどこかに連絡するのを見て、その手を掴む。
「_____、っ。」
どこに電話をしようとしているのかなんて分からない。でも、考えなくたって分かる。
それでも_____。
「…………っぅ、。ぃ、____なぃっ。」
会長の胸ぐらを掴みかかるように掴んで、引き攣ったような呼吸で何とか言葉を紡いで訴えると、その勢いのまま、会長の持っていた端末が地面にポトリと落ちた。
「__________っ、ぃ、か…………ない。」
掠れるように吐き出されたその言葉は雨に掻き消されてしまっているのではないかと思うほどに小さくて、会長(めのまえのひと)に届いているのかすら分からない。
くるしい。くるしい。
イタイ。
それでも__________。
病院には行かない。
あそこには行きたくない。
「_____あおい、ろ…………?」
今日みたいな日ならば。
こんな雨の日は。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
185 / 195