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欠片(かけら)1
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唯賀が傘も差さず吐き気も催すような頭痛に苛まれながら蹲っていたら、唯賀の前に傘を差した瑠夏が立った。
「会長。ここに九重は、」
「………………クロユリって、なんだ。」
目の前にいる瑠夏に気づいていない唯賀のその様子に瑠夏は眉を潜める。唯賀は際限なく痛む頭を押さえながらそろりと立ち上がってようやく瑠夏の存在に気づいたような表情で目線を向けた。
「九重は、ここのどこにもおらんかったで。」
唯賀の普段とは違う様子に気づきながらも瑠夏は何でもなさそうに告げた。
「瑠夏。白髪のキャップを被った生徒とすれ違っただろ。」
「さぁ。そんな生徒とはすれ違ってなんかないで。ただ、落ちてるキャップなら見つけたけど。」
瑠夏に気づくこともなく、春が落としていったキャップを唯賀に手渡しながら言う。
「どこに落ちてた。」
「公園の西側、ショッピングモールがある方向で拾ったんやけど、って。その帽子が落ちてただけやから、今から行っても見つからへんと思うで。会長。」
瑠夏は唯賀が公園の西側へと向かおうとするその唯賀らしくない行動に、今の今まで春と唯賀のやり取りを遠目に見ていた瑠夏は引っかかりを覚える。
「まだ、間に合う。」
「もう、既に。一限は終わって、二限目が始まる時間やで?」
「そうだとして、だから、何だ。」
「よりによって、定期試験前の時間を、わざわざ潰してまで追いかける相手ちゃうやろ。今度の【的】は、何か特別な思い入れでもあるん?」
「今、その話をする必要あるのか。」
「図星だからって怒らんでもええやん。新歓の時のあの生徒は、わざとアンタに突っかかってきたような連中とはちゃう。春田側なのかもはっきりとは分からへん。厳密に言えば、新歓の時のアレはアンタの勝ちや。それやのに、執着しとる。端的にいうなら、そうやな。…………会長、アンタらしくもない。」
自分らしくもないことは自分が一番分かっているのだと思いながら、唯賀はキャップを掴む手に力が入る。
「そうだ。俺らしくもなく、どうしようもなく執着してる。そうじゃないなら………………………あんなことを俺は、しない。」
最初、唯賀は白(きよ)だと思っていた目の前の人物の、顔を隠すような前髪の隙間から焦がれていたあの色を、一瞬ではあったが捉えた。なのに、目の前にいるのは唯賀であるのに、〝また〟唯賀のことなど見えていないかのような態度に苛立った。
だから、どうにか唯賀に意識を向けさせようと抱き寄せた。あんな突飛な行動を取った。あの行動の理由なんてものは、ソレ以外に、執着以外にないはずだといまだにガンガンと痛む頭に悩まされながらも唯賀は答える。
「あの時から今まで、______っ、ずっと、」
その先に続く言葉を唯賀は呑み込んだ。
呑み込まざる得なかった原因はズキリと頭を刺すような痛みに苛まれたから以外に、もう一つ。
自分が話しているはずだ。それなのに、分からない。
自分自身からついて出る言葉なのに
〝あの時から今まで〟__________がいつのことなのか唯賀には分からなかった。
(あの新歓の時からか?でも、違う気がする。)
答えのない問題を解かされているような、何かが足りないと思うのにその何かが分からないような、そんな気分にさせられるこの状況が酷く不快で、唯賀を苛立たせた。
(初めて見た時から、あの新歓の時からずっと、壊してしまいたくて。そうやって、壊してしまえたなら__________きっと。)
「きっと_____。…………っ、なんなんだ?」
頭痛が鋭くなっていくにつれて
糸が絡まるようにぐちゃぐちゃになって解ける糸口を見つけられないでいたその時、誰かが唯賀の肩を叩いた。
「ここで何してるのか聞いても………って。」
肩を叩かれたことに振り返った唯賀と唯賀の肩を叩いた帝の視線が交差する。お互いがお互いを捉えて視線を外せずにいたその均衡を破ったのは、帝の後ろから現れた風紀委員によってだった。
「帝。早く中に………あ、。おはよう。カイチョーに、ルカくん。カイチョー、あんまり帝を虐めないでね、今はもう何ともないけど痛そうだったんだよ。」
その風紀委員は口元を指して
帝が唯賀によって怪我させられたことを暗に仄めかす。
「いや、別にいじめられたわけじゃないって言っただろ。ただ、ちょっと転んだだけで。」
「ソーナノ?」
「そうだっ、て、」
「わざわざ、嘘を言う必要はないだろ。俺がお前のとこの風紀委員長を殴った。」
帝の言葉を遮った唯賀は、冷え切った目を帝へと向けて言い放つ。
「相変わらず仲良くないみたいだねー。前は、仲良かったのに。ルカくんもソー思うよねー。」
瑠夏は面倒なことを聞いてくると思いながら、唯賀と帝へ一瞬、視線を向けてから風紀委員へと視線を戻して答える。
「それは俺には分からへんことやわ。気づいた時には仲悪いって噂やったし。そないなことより、風紀は仕事があってここに来たんとちゃうん?」
「ぁ。じゃあ、先に中に入ってるから。帝、後は説明しといてね。」
帝の肩を叩きそう言い残した風紀委員はすぐに建物の中へと入っていった。その説明の意味が何なのか分からずに瑠夏も、そして、唯賀も帝へと視線を向ける。
「黒河先生から、さっき緊急の連絡が入った。生徒会補佐の白石成が重傷。その白石が倒れていた現場がこの立入禁止の建物らしい。それで、唯賀生徒会長と広報に聞きたいんだけど_______ここでは何を?」
「何も。ただ、俺は自分の親衛隊を探していただけだ。瑠夏は、その付き添いみたいなものだ。」
「こんな雨の中を?」
「外に出た時は、晴れてたからな。」
「じゃあ、ここら辺で誰かに会ったとかは?」
瑠夏は、一瞬、唯賀に目配せしながら、唯賀の動向を見守る。本来の唯賀であるなら、相手は仲違いをしている風紀委員長だったとしても、信頼というものは簡単に崩れるということを分かっている唯賀ならば、嘘をつくことはないと睨んでいた。けれど、さっきからの言動を鑑みると分からないなと瑠夏は辺りをつける。
「さぁ。少なくとも、俺は誰にもすれ違っていない。お前は、どうだ。瑠夏。」
唯賀から意味ありげな視線を受けた瑠夏は、その意図を汲み取って帝に答える。
「あー………俺も、分からへんで。誰とも会ってないんやから。」
「分かりました。また、話を聞くこともあるかもしれないけど、その時はよろしくお願いします。」
帝は、とりあえずは納得し伝え忘れていたと
学園に戻ろうと背を向けた唯賀を引き止めた。
「生徒会長。生徒会室で待ってる人がいます。」
「待ってる人?」
「今朝、復学した人で。前に、この学園にいた人らしい。」
「誰のことだ。」
「確か、名前は。………鶯谷 彩雲(うぐや あぐも)って言ってたけど。」
その名前を聞いた唯賀は、驚いたように目を見張って、呟く。
「鶯谷、彩雲?」
瑠夏もその名前に、表情を曇らせながら
雪が連絡してきた理由は、もしかしたら
それもあったのではないかと今になり思い至った。
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