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欠片(かけら)3
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NO side
「何なんだ。」
生徒会室に一人、残された唯賀は鶯谷が結局、何で戻ってきたのか聞けずじまいだったと溜息を吐いた。けれど、それよりもとずっと手に持っていた白のキャップを取り出してさっきの〝あおいろ〟を思い浮かべる。
「違った気がする。」
新歓の時に見たあの時とは色が違ったように思えた。けれど、新歓の時と同じ特別な瞳をしていて、宝石でも埋め込んだようなそんな色だった。
青色ではあった。けれど、青色というには少し黒ずんで見えた。
「雨のせいか。それとも、寝不足のせいか。」
唯賀は生徒会室の扉に身体を預けながら、記憶を引っ張り出そうとしてみる。が、また、ズキリ、ズキリと尋常じゃない頭痛がぶり返したことに目を瞑って頭を押さえだす。
思考もままならないほどの痛みに我慢が効かなくなった唯賀が痛み止めの錠剤を取り出そうと、自分の机の引き出しを開けると、その拍子に床に鍵が転がり落ちた。
引き出しにかけていた手を離して、拾い上げたその鍵は自分のものではないと認識する。けれど、それは誰かに貰ったものだった。
「誰に…………、。」
【 】
ふと、脳裏を過ぎる朧げな記憶。
陽の光に照らされて、黄色味を帯びた茶髪の
人物が何かを話す。けれど、唯賀はその人物が何を話しているのかうまく思い出すことはできなかった。
「何なんだ、っ。」
苛立ち混じりの声が響く。
止みそうもない頭痛でもなく、覚えていないことへの歯痒さに対してでもなく、それ以上に焦燥感を引き起こすような〝何か〟を思い出せないことが唯賀に恐怖感を与え続けていた。
「何だよっ、………………天宮晴(アンタ)、何を言ってんだ………っ。」
唯賀が苦々しそうな声で溢した、直後、一色のデスクの上に置いてあったマグカップが滑り落ち音を立てて砕け散った。
瞬間、激痛が走り続けていた頭の痛みに、耐えかねた唯賀は、ついに膝を折り、そして、手に持っていた鍵を手放すと同時に、意識は暗転した。
※
唯賀 side
______パリンっ。
雲が厚くかかっている灰色の日。
突然、机の上に置いてあったガラスのコップが割れた。
見覚えがある一室に、見覚えのない誰かがいる。
薄茶色とも灰色とも取れる色を合わせ持った誰かがベッドの上で眠っていた。
その隣に腰掛けていた俺が片付けをしようと思い、ベッドから立ち上がろうとしたら、手首を掴まれて立ち上がりかけた腰をベッドへと引き戻される。
後ろを振り返れば、誰かの閉じられていた目蓋がゆっくりと開けられる。俺は、吸い込まれそうなその瞳に魅入られていた。ただ、ジッと見つめてくる誰かの動向を見つめていたら、ゆっくりと上半身を起こしたその誰かは俺の着ている服の裾を掴んで肩へと額を擦り付けるように寄りかかってきた。
【_________いかないで………………、っ、。】
言葉を紡ごうとした瞬間に
目の前の景色が薄れだした。
俺に縋る誰かが遠のいて行くのを見て、冷静な頭は
また、変な夢だと理解した。
目が覚めるとすぐに忘れ去っていく夢だと。
目蓋を開き、身体を起こしながら
辺りを見渡さなくとも、消毒液の独特な匂いで理解した。
「保健室か。」
「おぉ。正解、大正解ー!!さっすが、生徒会長サマー。尊敬しちゃうなぁー。」
俺が眠っていたベッドの横。
頭の後ろで手を組みパイプ椅子の背もたれにだらしなく
もたれかかりながら軽薄さを隠そうともしない風紀顧問の姿を見て、黒河の方が幾分かマシだと思い直す。
「いやぁー。唯賀くんが保健室にいると中等部の頃を思い出すねぇー。あの時の君がこんなに立派になって、よかったよかった。」
「黒河先生はいないんですか。」
「会話してよー。ったく、相変わらずつれないねー。中等部の頃の君のこと知らない子は、あの荒み具合みたら、驚くだろうね。出るなっつってんのに、寮から勝手にいなくなるわ。授業はサボるわ、一週間後に戻ってきたと思ったら、け…、」
「つまり、何が言いたいんですか。」
「君の御所望の答えをしよっか。つまり………黒河はいないよ。唯賀くんは、聞いてないん?白石の件をさ。ま、その件で学園の敷地外の病院に行ってるからねー。ハハハ。生徒会長様にとって、そこまで、どうでもいい存在に成り下がったわけか、白石は。」
わざとらしい風紀顧問の乾いた笑い声に、どうしたって鋭くなる眼光を向けながらも、平静を努めつつ口を開いた。
「白石を生徒会補佐にまでしたのに、また、何か言いたいことでもありますか?」
「いーや、全然ないよ。ただ、僕ちゃんが言いたいことはさー、確かに、風紀委員だった白石を生徒会に半ば無理くり入れけどさー、もう少し配慮があってもいいんじゃないのかってことなんだよね。」
「配慮?………………それは、まさか白石の周辺を整理しろと言うことですか。」
「怒ってんねー。まぁ、でも……贔屓目なしに、白石の功績は高いはずじゃんか。元会長のリコールもアイツ達なしにはあり得なかった。白石自身がお前に何かしたわけでもないし。例え…………………君を目の敵にしていた元会長の八神の側に白石がいたとしても。」
「冗談じゃ、」
「相も変わらずつれないけど。相も変わらず喧嘩っぱやいね、ゆーいが。はぁー、これは言いたかなかったけど、いいか。………………あ!そーいえばさー、うーっすら、噂になってるんだけどさー、うちの大事な風紀委員長のこと殴ったんだって?」
風紀顧問のニタニタと笑みを浮かべるその表情を見て、言わんとしてることが理解できた。
「うちの帝くんはさー、君に引け目を感じてるからなーんにも言わないと思うんだけどさ。………チャラにする代わりに、取引しよっか。君に不良少年の性質が残っててよかったよかった。」
「つまり、風紀委員長との件を問題視しない代わりに白石の待遇を改善しろと言うことですか?」
「正解、正解、大正解〜!話が早くて助かるなー!………だって、十中八九は今回の白石の件は君達のとこの親衛隊(ファン)の暴走だと思ってるんだよねぇー。ま、違う可能性も大いにあるけど、こんな大事になったのは何もしてこなかった君のせいじゃん?特に…………君が白石のこと、あからさまに嫌ってるから他の人も白石は嫌おうが何しようが構わないと思うんだよ。」
この風紀顧問は、夜の繁華街を歩く小金持ちの人間と同じような格好をしてるくせに、それに見合わずに頭の回転は良い。
黒河に、子供みたいに妙に突っかかって相手にされておらず忘れがちになる事だが………………元会長をリコール後に窮地に立たされていた白石に助け舟を出したのもこの風紀顧問だ。
「それに、帝に貸しを作ってるのは癪なんじゃないの?」
「貸し?」
「そ。仮にも風紀委員長の顔に傷、作っといて、ここまでうーすらっとした噂しかないなんて帝が潰してるに決まってるじゃん。」
風紀顧問の言葉を聞くまで、気づきもしなかった。
そういえば、さっきも庇い立てるようなことをしていた。
「そんなことをしてくれたのか、ありがとう………なんて俺が言うとでも思ってるんですか、おたくの風紀委員長は。」
「さぁ?帝は皆んなに優しいから。」
「アイツは優しいんじゃないですよ。何も選ぼうとしないだけのただの臆病者だ。」
「………まぁ、そうかもね。」
授業の終業を知らせるチャイムの音が鳴り響く。
その音を聞くまで俺は、あの公園から学園に戻ってきた目的のことをすっかり忘れていたことに気がつく。
急いでベッドから出て保健室のドアノブを捻れば、風紀顧問に呼び止められパイプ椅子に座ったままの風紀顧問の方へと振り返る。
「生徒会長さま。もう来客はいないし、それに、傾城ちゃんにありがとうって、言っときなよ。」
「傾城ちゃん?」
「西方宵きゅん。君が倒れてんの見つけて、僕を呼んでくれたのはあの傾城ちゃんだからさ。………じゃあ、僕ちゃんが言ったこと、よーく、覚えていてねっ!ぁ、そうだ………もうひとつさ_________。」
風紀顧問との会話を終え、自分の目で確かめる必要があると、足早に校長室へと向けた足は昇降口前で止まった。
「会長さん、どうぞ______。お手紙です。」
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