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王冠の行方2
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No side
「………オルタンシア。」
荒谷は、その紫色に輝く瞳に過去を思い出すように目を細める。
かつて、大人は絶対に正しいのだと思っていた。
だから、子供の自分は間違っているのだと思っていた。
そんな日々に、邂逅した老爺。
彼が教えてくれた。
【大人ですら間違うのです】________。
誰もに忘れ去られた
その場所に住む老爺もまた
同じ色を宿していた。
「随分、協力者がいるんだな。」
チラリと荒谷を見つめた鶯谷が告げる。
だけど、荒谷はそんな事よりとあの瞳の煌めきを見つめた。
「………………っ、」
荒谷は分からなかった。
確証もほとんどない。
けれど、あの瞳の輝きは間違いなく
オルタンシアの持つ特徴だと言えた。
春とあやめを示す特徴だ。
荒谷は被っているカツラ、着用のパーカーのフードが取れていないのを確認した後、頭からすっぽり被っていたカーテンを鶯谷へと投げつけ、白髪に紫の瞳の人物の腕を引っ張る。
そして、左目は髪がかかっているため分からないが、右目を煌めかせる紫色の瞳を向けてくる人物を肩に担いで立ち上がり、教室を勢いよく出た。
が____________鶯谷が簡単にそのまま立ち去せてくれる訳もなかった。
黒いカーテンをあっさりと取り去り、鶯谷が近くの机を軽く乗り越えて、正面出口側の扉から身体を滑り込ませて荒谷の真正面に立ち塞がる。
「ソレ。早くこっちに寄越せ。」
『ソレ』と、紫色の瞳を晒した人物を顎で指し示す。
荒谷は、鶯谷のその言動に手の中にいる相手を抱く手を強めた。
「今日は雨だってのに…………黒いカラーコンタクトはやめたのか。」
鶯谷が告げた『ソレ』に荒谷が反応をしていた事など鶯谷は気にも留めずに、無視をしたまま紫色の瞳をしていた人物へと尋ねる。
「小さい頃は、してただろ。目が充血しても雨の日の前後は必ずな。」
鶯谷が一歩、荒谷の元へと近づく。
旧校舎の出入り口は、正方向で行くならば正面出口しかない、つまり鶯谷の横を通り過ぎなければならなかった。
時間がないにも関わらず荒谷は後退を強いられていた。
「それに、人とそんな距離感で話せるのか?〝はれ〟だったか?………アイツなしじゃ他の誰とも話すなんて出来なかった癖に。」
鶯谷の言葉に、身体をピクリと反応をさせたのに荒谷は気づいて腕の中の人物を見た。
「もう十分、奪っただろ。学園(こんなところ)まで来て〝天宮〟に復讐でもする気かよ。………………退学しろ、母親の____________本当の天宮晴(あまみや はる)の、アイツの母親の為にも。」
鶯谷はだるそうに片手を首の後ろへとやりながら告げる。
〝ここは、お前の居場所じゃない〟
ポタリ。
荒谷の肩口に雫がまた一つ落ちる。
それが雨の粒か涙の雫か荒谷には分からなかったが
鶯谷が皆まで言うより早く、荒谷は鶯谷へ背を向けて走った。
「………………荒谷、」
荒谷は腕の中の人物が誰なのかさえ分からずに走っていたが、静かに告げられた名前に視線を向けた。
確実に聞き覚えのある声質に、荒谷は足を止めそうになるが後ろから聞こえる足音が迫っている為、それは叶わない。
「あっち。」
指が指し示す方向に荒谷は、目を疑ったが
それでももう、それを信じるしかなかった。
何もせず鶯谷に捕まるよりマシだと荒谷は判断した。
階段を駆け上った先、カーテンが雨風に晒されてはためく。荒谷は示されたままその窓から煉瓦造りの屋根へと飛び乗る。そして、荒谷はここに来た意味を理解した。
網状のフェンスを越えた先には、大雨のせいで満杯の水面が揺れるプールが隣接していた。
鶯谷も階段を駆け上り、荒谷の背中を捉えたが
これからしようとしている意図は見えていない。
「退学になんてさせない。」
それにこう言うのは結構、得意なんだよなと荒谷は助走をつけてフェンスを飛び越えた。
__________バッ、シャンッ。
水飛沫が上がる感覚と共に荒谷は水中の中に落ちていた。そして、浮遊の際に落ちたカツラはそのままに直ぐに脱げたフードを被り直して一緒に落ちた人物とプールサイドから遠のく。
「逃げられたな。けど、どう見繕っても」
その荒谷の姿を見ていた鶯谷は想像の斜め上の動きをした事に驚いた。けれど、鶯谷の目的は果たされた。
荒谷が旧校舎からいなくなったのは
門限時刻の5分前だった。
「お前らが後、5分で〝指紋認証〟もしくは〝認証コード〟なんて押せやしないだろ。」
荒谷に抱えられている白髪の人物へと鶯谷は視線を向ける。
「佐藤蒼が、あの弟に繋がるのは分かってるんだよ。」
ピコン。
門限時刻5分前____________。
鶯谷へと送信されたメッセージ、それには
寮の指紋認証、もしくはパスコードを入力した生徒の名前が連ねられていた。
そこに『佐藤蒼』の名前がないのを鶯谷は確認した。
3分前。
1分前。
1秒前______________。
門限時刻を過ぎる前に、更新された情報。
そこに『佐藤蒼』の名前は連ならない。
ポケットに仕舞い込んだままいた鶯谷は、手のひらに収まるサイズの黄金色の王冠を取り出した。
「この勝負(ゲーム)は、俺の勝ちみたいだな。」
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