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プロローグ
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ブブブブブ………ブブブブブ………
イヤホンの付けられたままのスマホのバイブ音が、畳の上で鳴り響いている。
寝たままの体制で取ったスマホの画面に映ったのは
『お婆ちゃん』の文字。
寝ぼけながらイヤホンを外し、画面をスライドして祖母からの電話に出る。
「もしもし、朝やで、起きや」
「……分かったー……ん、ふぅう…はぁ…」
祖母からの電話を切り、両手を上に上げてミシ、と鳴りそうなくらい体を屈伸する。
寝起きの心地よさを味わっていたかったが、今日からはとある高校へ編入することになっているため、準備に掛かろうと上体を起こす。
「ふぁあ〜…メンド……」
そんな軽い悪態を付きながら階段を降りる。
いつもの平日と変わらないように、一階の洗面所で歯磨きと洗顔をして、爆発している髪型を丁寧に整えた後、
居間で祖母の調理した丁度いい量の鮭や卵焼きや味噌汁や米を胃に入れる。
朝の天気や占いを見ながらちまちまと今日までに用意することができたカッターシャツと、紺色のブレザーを着てから黒色のズボンを履く。
「んじゃ、行ってくるわ」
皿洗いをしている祖母に向けてそう言ってから、玄関で靴を履き、スライド式の戸を開けて一歩踏み出す。
「朔、忘れ物やで」
「ん?」
祖母に声を掛けられて振り向くと同時に祖母が首に手を回し、赤いネクタイを締め始めた。
「ネクタイ、忘れたらあかんやろ」
「……ホンマや、うっかりしてたわ。ありがと」
少し恥ずかしくて顔を赤らめてから目を軽くそらすと、祖母が僕に向かって微笑を浮かべながら言った。
「……朔、緊張してたらあかんで。平常心で行くんや。色々これからあると思うけど、がんばんねんで。」
ネクタイが締められると、手に何かを渡され、見ると小さな手作りの御守りだった。
交通安全やらが刺繍されているが、
一箇所に大きく『日下部 八朔』と刺繍されていた。
「……ありがと」
「道に気をつけて行ってくるんやで」
そう言うと祖母はまた微笑み、家の中へと戻っていった。
高校への道を行く途中、
『欠伸の所為』で目が滲んで前が見辛かった。
「(ここが僕のこれから生活していく場所なんや。良いこと、あればええな)」
そう思って、イヤホンを耳につけた。
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