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スタートラインY その10
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トイレへと抜け出し洗面所のカウンターへ両手を着いて、水の流れる排水口を無心で眺めていた。
俺の気持ちもこの水と一緒に流れろ、と体の真ん中をこじ開けてぐちゃぐちゃになった何もかもを吐き出すような妄想をしていた。
「おい。」
入り口から声がして視線を向けるとタバコを銜えた川本が立っていた。
「川本。ビックリした・・・どないしたん。」
「お前飲み過ぎちゃう?ハイペースすぎるやろ。潰れるで。」
「飲みたい気分やねん、あたし。」
最悪にみじめな気分の時に元気なフリをするのは心底辛い作業である。
「合コンの肉食女子かお前。」
「やだぁ。お持ち帰りとか狙ってんちゃうぅ?そんな軽い女ちゃうでっ。」
「・・・。」
いつになく無表情な川本が入り口に無造作に置かれた灰皿に、ぽつりと灰を落とす。
ジっと消える灰に点いた火の音でさえ聞こえそうな静けさに一瞬の気まずさが滲んだ。
「何やノリ悪いな?気分悪いんか?」
そんな空気を拭うようにふざけて川本の顔を覗き込むと、一瞬睨まれた気がする。
「川本、機嫌悪いんか。」
「お前やろッ・・・。」
小さく搾り出す声に、俺の中を読まれてはいけないと思うと、なおさらいい笑顔が出来た。
「何言うてんねん!元気やんけっ。元気ないのお前やろ!ほらはよ部屋戻んで!」
タバコを消した川本の肩を押して促すと、吐き捨てるようなため息と共に俺をその場に残して足早に部屋へと戻る川本。
「・・・んやねんッ。」
ダン!と鈍い音と共に硬く冷たいライムグリーンのダサいタイルに打ちつけた拳からじわりと広がる痛み。
・・・俺にこれ以上どないせぇっちゅーねん。
勝手に好きになって、勝手に傷付いて、勝手に八つ当たりして、俺はまるで自分勝手な悲劇のヒロインだ。いや、ヒーローか?
あまりにも滑稽でかわいそうで、苦しい。
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