アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
スタートラインY その13
-
カシャン、と公園の入り口で音が鳴る。
近所の中学生でも通るのか、それとも警察か、と持っていた瓶を強く握って目を凝らし、誰かが歩いて近付いてくるのを街灯の明かりを頼りに探った。
「・・・何してんねんお前。」
光の下に現れたのは
「川本・・・。」
少し息が上がっているように思い白い吐息の量に目をやるが、大きなため息と共に不機嫌そうな川本が、横のブランコへ腰を落とした。
ホンマに・・・。ほっといてくれへん奴やな。
「なんで二次会けーへんかってん。」
「なんでて、なんとなく帰りたなって。」
「ほななんで家帰らんとここおんねん。」
「飲み足らんかってん。」
「ほんなら居酒屋、・・ッ・・も、ええわ!」
イライラしている川本がなんだか面白く見えて、さっきまでの苦しさを忘れさせてくれるような気がした。
一本だけ念のために買っておいた缶ビールをレジ袋ごと川本に差し出す。
それを引ったくるように奪って開けた川本はどこぞの砂漠でオアシスでも見つけた人のように一気に流し込んで、一息ついた。
「もう二次会お開き?早ない?」
「まだやってるやろ、多分。」
「戻らんでええの?戻りぃや。」
本当は戻ってほしくもないくせに、どの口が言うんだと自分を笑った。
「俺ここにおったらあかんの?なんかあんのけ、これから。」
「なんもあれへんけど・・・。せっかく二次会あるんやし、楽しんだらええかと思て・・・。」
「ほなお前も来いや。」
「・・・俺はええわ。」
フェンス越しに遠く見える車のライトが大通りを通過していく様を二人で見送る。
「お前おらんとおもんない。」
不貞腐れたように小さく呟いて残りのビールを飲み干した川本。
「楽しそうに、してたやん・・・。」
津田の隣で。
思い出せば心臓がきゅっと痛んだ。
ギィと軋むブランコに少しだけ力を貸してゆっくり揺れながら頬を掠める風を感じる。
「なんやそれ。」
言いながら川本はブランコに立ち直して漕ぎ始める。
思っていたより機嫌が悪くないような横顔に、聞いてもいいような、もう聞いてしまって終わらせたいような衝動と酒の勢いに力を借りる事にした。
「付き合えたんか?」
「誰とやねん。」
「・・・津田と。」
大丈夫、俺はちゃんと話せているはず。
笑えているはず。
「なんで津田が出てくんねん。」
「好きなんやろ、津田の事。島田が言うてた。」
「・・・。」
「このクラス会でくっつけたるて張り切ってたで。・・・よかったんちゃう?」
ひねくれている。俺は嘘つきや。
何がどうええねん。
心臓が痛すぎて、酒が回ってる鈍る感覚とは反対に意識だけが鋭くなる。
「何がやねん!」
明らかに怒りを含んだ川本の声とボリュームが些か驚いて体が跳ねた。
「声おっきいてッ・・・」
川本は立ち漕ぎしていたブランコから飛び降りて着地した後、俺の前に来て僅かに揺れていた俺のブランコの鎖を掴むと、その動きを封じた。
「な、なに?」
イライラしていると分かりやすく感情を垂れ流す川本の事は理解しているが、一体何にイライラしているのか見当もつかず戸惑う。
「・・・なんで怒ってんの?」
「怒ってへんわ!!」
「声でかいて・・・!怒ってるやんッ。」
人気がないとは言え周りは住宅街だ。通報でもされたら困る。
「・・・怒ってへん。お前にイラついてんねん。」
俺がイラつく事があってもなぜ川本にイラつかれなければならないのか。
「ほんならやっぱり怒ってるやんけ。」
「怒ってへん。イラついてるだけや。」
「だからそれが怒ってるー言うてんねん。」
「怒ってない。」
「怒ってる。」
毎度の事ながら認めようとしない川本に、ここまで来たら俺も意地になる。
「怒ってないてっ。」
「怒ってるて。」
「怒ってへ、あ゛ぁ!!・・・なんやねんお前!腹立つ!!」
一連のやりとりに苛立ちがピークの川本は俺の脛へ軽くローキックを入れて、落ち着くためなのか乱暴に左ポケットからタバコを取り出して火を点けた。
俺は足元の土を削ったり寄せ集めたりに精を出し、川本は俺の後ろにある建設中のマンションの垂れ幕を眺めながら何度か煙を空へ解き放たせて空き缶へ入れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 116