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初恋 その4
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「あれ?梶原?」
島田が窓の外へ向かって呟いた後、誰かに存在をアピールするように薄汚れた窓を叩いた。
相手も気付いたようで下校の足を止め、島田はそのまま外へ向かう。
俺は酒井が作るお好み焼きを待つのが手持ち無沙汰で、島田の知り合いには一ミリの興味もないが自然と向かう先を覗っていた。
この前の川原のあいつ。
・・・かじわら、言うんか。
「な、酒井。あいつ知ってる?」
酒井はチャラい、いわゆるヤリチンのクソだ。顔だけは無駄に整っているが、長髪が鬱陶しい。
同じ中学出身で部活も三年間一緒。高校に入ってまたこいつと部活をともにするハメになるのは不本意だが、サッカーだけは評価している。違う小学校に通いながらもお互いに顔は知っているくらい、頻繁に試合で会っていた腐れ縁だ。
唯一腹が立つ事といえば、俺より身長が高い事。
俺の視線の先へ一瞬目をやって、興味なさげにすぐ戻すと、焼き加減を慎重に見定めながら酒井が答える。
「あ?・・・あぁ。島田と同中やて。結構強いらしいで。」
「は?ケンカするようには見えへんけど?」
どこからどう見ても野暮ったい。一見ダサい。きっちりと閉めたネクタイに上まで上がったスラックスに学校指定のベルト。
丈がおかしいねん実際。
がり勉ダイプにも見えないが明るいタイプとは正反対な印象を受けるし、ましてやケンカをするようになど絶対見えない。
「ちゃうちゃう。空手か柔道かなんや知らんけど、選抜選ばれてんちゃうかな?」
「へー。・・・見えへんな。」
あんなヘタレみたいに見えんのにな。
ガタイはええけど。
格闘技を詳しくは知らないが、一年で選抜というのだから何かしらがとにかくすごいという事だけは分かった。
島田は何かを必死に訴え、あまり開かないと予想していた梶原の唇が動き、それに反応しては動き少なく答えている。
あ、笑ろた。・・・意外。
その表情はいつものような覇気のない、暗い表情からは想像もつかないほど予想外の衝撃。
屈託ない笑顔にきゅっと上がった口角と、覗く白い歯が眩しい。
引き寄せられるようなその笑顔は無邪気であどけなくて、これ以外の表現が見つからないと思うほど『かわいい』、と思えた。
男相手にかわいい、て。俺はアホか。
ま、ホンマに予想外やし、やねんけど。
自分にツッコミを入れつつ、それでも視界を他へ移すという選択肢はなかった。
「空手ってな、胴着の下なーんにも着けへんらしいで。」
「へー・・・。」
嘘とも本当とも取れない酒井の下世話な話を興味なくスルーしながら視線だけで奴を追う。
もう一度笑ってみろなどと念力を送り、島田にはもっとおもろい事話せ!と思わずにはいられなかった。
「焼ーけた!」
酒井の声でハッとして、ようやく視界を外す。
「あ、おう。」
「今日のはうまいで!透スペシャルやで!」
「お前毎回それ言うな?もうええで。」
「食べてみぃて。いつもとちゃうって。」
「登美子が掻き混ぜてきよんねからお前のさじ加減関係あらへんやろ。」
「焼き方の問題やねん焼き方の!ほんでふくやのおばちゃんを呼び捨てすな!」
ふざけきった熱弁を振るう酒井を尻目に安定の普通味お好み焼きを空きっ腹へ収めていると、島田が店内へと戻ってくる。
鉄板から直接口に運びながら無意識に帰る梶原の後ろ姿を追っていた俺に、戻ってきた島田が着席の勢いごと肩をぶつけてきたお陰で、俺は無事に火傷を負った。
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