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side藤崎瑠璃
―――――――
自宅は大学から徒歩で通える程近い
この距離の近さが嫌だった
もっと遠いほうがいい
辺りは暗く、道を照らすのは頼りない街頭のみだ
この暗闇がずっと続けばいい
いつも通りの道順で帰る
そこに家が無ければいいのに
そう願ったところでいつも通り角を曲がれば俺の嫌いな家がある
玄関を音をたてないようにそっと開ける
人ひとり通れるくらい開けたところではっとした
――忘れてた、ケーキ…
義弟の誕生日ケーキ買うように言われてたんだ…
今から買いに行こうにも店はもう閉まっているだろう
どうしよう…怒鳴られる…っ
こんな些細なことでも父は容赦がない
自分にとって要らない人間が自分の仕事すら果たせない。そんなときはいつも暴力だった
玄関先で固まっているのも埒が明かないので中に入って恐る恐る小さな声でただいまと発する
奥からキシキシと足音が聞こえて、俺の嫌いな男…父親の顔が覗く
「おお瑠璃!やっと帰ってきたかぁ遅かったじゃないかー、ケーキは、買ってきたのか?」
不気味な笑顔…
家族に向ける笑顔とは打って変わって俺に対しての笑顔は一切の温もりを感じない
「あ、の…ごめ、なさ…」
自分でも驚くぐらい声が震えている
喉が詰まって声が出ない
俺の声色になんとなく気付いたのか作った笑顔が一瞬にして消える
「なんだ。正直に言ってみなさい」
「どうしたのー?あ、瑠璃君おかえりなさーい。ねぇなになに?」
また一人奥からやってきたのは再婚相手の人…。真っ赤なマニキュアをコーディネートして爪が華やかな女の人
「瑠璃。早く言え」
どうせわかっているのにわざと急かしてくる
「ケーキ…なん、だけど、」
これを言ってしまえば多分、いや確実に暴力を振るわれる
「買うの、忘れてきちゃって…」
そこまで言ったところで左頬にパンッという乾いた音と共に痛みが走った
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