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カイコウ.5
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トン、トン。
静かな階段に、自分が階段を上る音だけが響いていく。
どこにでも、大抵誰かしらはいるこの学園にしては珍しく、人気が全くない。
柴山が言っていた、屋上。
それは、旧校舎の1番上にあるもので。
旧校舎自体がめったにつかわれないことと、その鬱蒼とした雰囲気が、人を遠ざけているのだろう。
無駄に長い階段を、淡々とのぼっていく。
…………全部話せ、ね。
必要がないと切り捨てた言葉。
そうして残った言葉は、それほどに足りていなかったのだろうか。
「…………まぁ、たりてねぇからあんな勘違いされんだろうな」
人と必要以上に関わることを避けて、その結果がこれだ。
相沢が言っていた言葉はやはり正しかったのだろう。
言葉にすることを怠り、その結果生じた行き違いが、結局は幾度も"人を突き放していた"のだろう。
そこまで考えたところで見えたのは、屋上につながる重厚な扉。
ギイィィ……
見た目通り重い扉を開けば、風が吹き込んできた。
「さっみぃな…………」
ごうごうと吹きすさぶ風に、思わず腕をさする。
6月とはいえ、風が吹けばまだ寒い。
もともと寒いのはあまり得意ではないのだが、ここ最近で体重が落ちたせいか、寒さに随分弱くなっていた。
腕をこすりながら、周りを見渡すも、伸也らしき人影はない。
「…………まぁ、そうか」
"ストレスがたまったとき"に屋上にいくんだもんな。
好きな奴と一緒にいるのに、ストレスなんてたまらないだろう。
そう思って、踵を返そうとしたとき。
「……………………?」
ふと、なんだか覚えのある香り。
そこで再び周りを見渡してみると、さらに一段高いところから、なにやら煙が上がっているのが見える。
よくみてみれば、近くにある梯子から、さらに上に行けるらしいことに気がつく。
そのまま、梯子をのぼっていくと。
「!」
「!!?」
そこにいたのは、紛れもなく伸也で。
ーーーあぁ、そう、これだ。
そこまで苦味を感じない、少し甘い香り。
思い返してみれば、それは生徒会室ですぐ隣から感じていたものとそっくり同じだ。
たばこの匂いだったのか、なんてぼんやり思う。
伸也が唖然としているのをいいことに、一気に距離をつめた。
「は?お前、なんでここに」
「てめぇを探してたんだよ。散々メール無視しやがって」
「あきらめりゃあいいだろ。あんだけ無視してんだから、行く気ないことくらい察しろよ!」
「てめぇの気持ちなんてわかるかよ」
その言葉に、伸也の眉間にシワが寄る。
そこで、ハッと気付いた。
言葉が、たりてない、ね。
「わかるわけねぇだろ。てめぇはなにも俺にしゃべんねぇし、俺はお前のことまだ何にも知らねぇ。思ってることがあんなら、口に出して言え。言わねぇと、わかんねえんだよ」
「は…………?」
「大体てめぇは、何かしらねぇが、俺のこと随分嫌ってるよなぁ?気にくわねぇことあるなら、直接言え」
「………………。急になんなんだよ。
…お前こそ、いままで何も言わなかっただろ」
「言葉が足りねぇって言われたからな。思ったこと全部言ってるだけだ」
だから、お前も全部言え。
そう言って、伸也が手に持つ煙草から上がる煙を、ぼんやり見つめる。
大体なんだこいつ、どこが"王子様"なんだか。
屋上に煙草って、まんま不良じゃねぇか。
「………………じゃあ言わせてもらうけどよ、"会長様"には、"無能な役員"なんて、必要ねぇだろ」
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