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亀裂.11
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そんな静寂をやぶったのは、またしても、何度か見たことがある顔だった。
「…………じゃあ、何。鈴原くんは、会長の噂は全部嘘で、会長は何も悪くなくて、俺たちが踊らされてたっていいたいの」
その言葉は、攻撃的に聞こえはするものの、そう告げる声は僅かに震えていて、弱々しかった。
「そ、れは……」
こちらを伺いながら、躊躇いがちに口を開いた鈴原を、片手で制した。
「それは、ちがう」
その言葉で、一気に俺に注目が集まるのがわかった。
「っ!?会長?!」
「ッ!!じゃあ、やっぱり……!」
そんな、対称的な声を、視線で封じる。
「…………噂が、嘘なのは本当だ。俺は別に親衛隊をコケにしたつもりはねぇし、仕事をサボってもいねぇ」
その言葉に、それまでなりを潜めていた怒気が蘇るのを感じた。
「は?!何を今更!!」
「そうだ!否定もしてこなかったくせに!」
「それを信じろっていうわけ?!」
そんな最もな反応に、苦笑が漏れる。
「…………あぁ、お前らの言う通りだな。
正直、つい最近まで、どう思われようがかまわねぇって思ってた。信じたいものを信じたらいいって。
…………けど」
横目で伺えば、泣きそうな顔でこちらを伺う鈴原がいて。
脳裏には、俺のために怒って、泣きそうになって、悔しそうな顔をしたあいつがいる。
「………………」
「けど、それを俺より悲しんでくれる物好きがいるって、わかったから」
少しの間目を閉じて、そうしてまた開いた。
並ぶのは、不満そうにしながらも、怒りながらも耳を傾ける生徒達が並んでいる。
全部全部が、示している。
ーーーー今まで俺は、逃げていただけだということ。
「……俺なんかのために、体を張って動くやつがいるって知ったから、」
「…………!」
「だから、もう遅いとしても、今更でも、俺自身が動くべきだと気付いた。お前達は正しい。信じられなくて当然だ。」
「…………な、んだよ。なんだよ、それ!!
回りくどい言い方したって、結局、自分は潔癖で無実だって、そう言いたいだけだろ!!」
そんな声にそちらに目を向ければ、そこには涙を流す生徒がいた。
「そいつが何も悪くないって、そんなことあるわけない!!!俺らだって、頑張ってる犬養様を見てきたんだよ!」
その言葉に、動揺したように鈴原の目が揺らいだ。
きっと、そこまで考えていなかったのだろう。
「………………おい」
そいつの目の前まで行って声をかければ、その薄い肩がピクリと揺れた。
「…………お前の言う通りだ」
「は…………?」
「優秀で、ずっと職務を全うしてきたあいつらが、揃って離れていったんだ。そこに俺の責任がないわけねぇ」
「どういう、いみだよ…………」
「俺は、"会長"なんだ、仕事さえしてればいいわけじゃない。あいつらに、やりやすい環境を用意すべきだったのに」
「…………」
「それどころか、あいつらは、俺が原因で離れていった。
最初に答えたとおり、修が謹慎になったのも、俺の軽率な行動のせいだ。
…………本当に、悪かった」
そう言って、深く頭を下げれば、再び辺りが静まり返った。
そうして、ほんの数秒にも、数分にも感じられる時間がたったとき。
「………………ほんとうは」
そんな、微かな声が聞こえた。
「ほんとうは、薄々、気付いてました」
その声をあげたのは、見覚えのない生徒。
恐らくは、修の親衛隊だろう。
「好きだから、信じたくなくて、見えていたけれど、気付かないふりをしていました」
「は?!ちょっと!?」
「裏切る気?!」
「裏切るとか、そんなんじゃなくて…………」
どこか気弱そうなそいつは、それでも恐る恐る続ける。
「…………好きだから、きっと今動かないと、手遅れになるって、そう思ったんだ」
「………………て、おくれ…………」
「会長に非があったとしても、それでも犬養様が、職務放棄していいことにはならない」
「…………そ、れは、でも…………」
「でも、犬養様はずっとがんばって…………」
「うん、だから見ないふりをしたよね、しんじたくなかったから。でも、"してた"じゃだめで、"頑張ってる"って言えないとだめなんだよ、やっぱり」
そういって、そっと目を伏せた。
そのささやかな動作から、細い声で告げられた言葉から、痛いほどの修への思慕が伝わってくる。
「…………ごめんなさい、貴方に責任があるとしても、全部じゃないこと、貴方も頑張ってるのかなって、ちょっと気付いてたのに、見ないふりをしたこと。
…………すみませんでした」
深く頭を下げたその小さな体を見つつも、どこか現実味のない風景に、どこか違和感をかんじる。
妙な浮遊感ともつかない違和感の中、ぼんやりしていた俺は、気付かなかった。
「…………んで」
動き出す、
「……ぅ、……が……、ちがうちがうちがう!!!!」
「え、」
「あのひとが嘘なんかつくわけない!!!!!」
不穏な影に。
ーーーーーーーードンッ!!!!!!
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