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97 口説きましょう、そうしましょう
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目覚ましの音で目を覚ます。
体は怠く重い癖に、なんだか妙に頭の中はスッキリとしていて気分だけは爽快だった。
大きな欠伸をして、バキバキに固くなった体を軽く解して身支度を整える。
会社に持って行く資料を昨夜のうちにまとめておかなかった事を軽く後悔しつつ、必要な物を鞄に詰め込んで家を出て会社に向かう。
電車に乗って朝のラッシュに揉まれて漸く、日常の現実に戻って来たような気がした。
「おはようございます」
各所に挨拶をして、お土産の煎餅を渡して回る。
朝のラジオ体操が終わって、席に戻ると溜まっている仕事の多さにうんざりしながら取り掛かり、その合間に提出すべき領収書と書類をまとめた。
忙殺とはこの事だなと自嘲気味に笑いながら、昼休みだというのに席でパンをかじりつつパソコンと格闘する。
しかし、これが山田と二泊三日、共に過ごした代償だと考えると安いもんだと頑張れた。
そして午後は残業もせずに、山田が会社を出るタイミングに合わせて追いかけるように俺も席を立つ。
「お疲れ様っしたー」
誰にともなくそう言って、会社を出ると
「やーまーだー君、奢るから夕飯でもどーお?」
と、山田に声を掛ける。
うんざりした顔で振り返る山田を笑顔で捩じ伏せ、ガッシリ脇を掴んで進む。
「うまい焼き鳥屋があるから、そこな」
「ちょっ、僕、行くなんて一言も………」
抗議する山田の声を、子供のような真似をして聞こえないフリをする。
「あーあーあーあーあー………あー、お前、今何か言ったか?」
すると山田は、不機嫌を露に頭を抱える。
「センパイ、良い度胸してますね」
「ははっ、お前程じゃねーだろ」
コイツを、もう何度も諦めようと思った。
けれどその度に、口では可愛くない事を言う癖にふと寂しそうな顔を見せるから結局俺は諦められない。
もう、諦める事を諦めた。
だから、これからコイツには開き直ったオッサンがどれほどタチが悪いかって事を、その身を持って思い知らせてやろうと思う。
「さっ、とっとと行くぞ」
そう言って、ガッシリ脇を掴んでいたのを解放してやる。
しばらくしてチラリと後ろを見ると、ちゃんと山田はついて来ていた。
クスリと笑いが出てしまう。
とても良い、気分だった。
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