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Wデート -8-
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二時間も経てば身体的な興奮は静まる。けれど精神的にはずっともやもやとしたものが残った。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、興本は鑑賞中ずっと繋いだままだった俺の手を、席を立ちあがるタイミングでさりげなく離した。
「面白かったな~!」
映画が終わってロビーで宗田と糸田と落ち合った。宗田は満足そうに笑顔で言った。
「そうだな。ラストは爽快で良かった」
「アクションがメインかと思ったけど、意外に心理戦がすごかったよな」
「ああ、あそこは俺も引き込まれた」
宗田と糸田が感想を言い合っている。俺もうんうん、と頷く。
「時間もちょうどいいし、どっか飯食いに行こうぜ」
いつまでも語り合いそうな宗田と糸田に興本が割って入った。時計を見れば確かに良い時間だ。正午を少し過ぎているから、きっとどこも混んでいることは簡単に予想できる。
「どこにしようか。がっつり行く? 下にマクドもあったけど」
宗田が糸田に聞く。糸田は俺の方を向きながら、どうしようかと首を傾げた。
「マクドは混んでるからなぁ。…あ、歩道橋の下に新しい店ができたらしいよ。そこ行ってみる?」
ふと、いつかの朝に父さんが母さんに話していた会話を思い出した。前の夜が遅かった理由を問われ、会社の人と飲みに行った帰りに新しい店ができているのを発見して立ち寄ったのだと父さんが話していたのだ。
「南口出たとこの? 何の店?」
「何だっけ。ラーメンだったかな」
「ラーメン良いじゃん!」
記憶を手繰り寄せながら答えると宗田がそれに乗ってきた。糸田も興本も反対はないようだったので、俺が案内する形で歩き出した。ロビーから下層階へ降りるエレベーターへと向かう。
俺の隣に興本、その後ろから糸田と宗田が付いてくる。
「ラーメンだと塩? 醤油? 豚骨?」
宗田が糸田に話しかけているのを聞きながら、俺と興本は特に話すこともなく歩く。
エレベーターに乗り込むと興本を見た女の子たちが若干ざわつくのを感じつつ、2階に着くと窮屈だった人混みがすっきりとする。2階は駅と隣接するファッションビルとの連絡通路があるから、ここで降りるのが大半だった。
女の子たちを見送ったあと、俺たち4人は1階まで降りた。
南口の歩道橋は駅を挟んで反対側にある。少し遠回りをして高架下から行くルートもあるが、俺たちは直線的に駅の地下道を抜けるルートを選んだ。
人は多いが距離は短いので、空腹な俺たちは短絡的な方を選んだのである。
この地下道は、駅と商業施設を繋ぐことを目的としていないから、本当にまっすぐ抜けるだけの道だ。けれど自転車でも通れるほどに大きく広いため、昼間は多くの人が行き交っている。
地下から階段を使って地上に戻る。南口は映画館のある北口程、商業施設はないものの大きな駐車場と、近くにいくつかの大型ビジネスホテルがあるので、それを囲うように飲食店が多く並んでいる。少し離れれば商店街もあり、今の時世でもシャッター街にはなっていない。
目印となる歩道橋は駅前のロータリーと、その向かいの歩道を結んでいる。
「あ、ここ。たぶんここだ」
俺は歩道橋を降りてすぐ手前にある店を指さして後ろを振り返った。白を基調とした壁に木材の扉と窓枠が浮き立ってなんだかオシャレな感じの店構えだが、看板に小さく書かれた拉麺の文字が唯一の手掛かりになっていた。
「あれ、匠真? 匠真じゃん?」
振り返ると宗田と糸田の後ろから声をかけてきた女性がいた。
その人は興本を見つけて嬉しそうに笑う。
「え、誰?」
宗田か糸田の声が耳を掠めたが、俺も興本も反応できなかった。興本を見ると眉を寄せて明らかに不機嫌さを出していた。
「久しぶり~! こんなとこで会うなんて嬉しいんだけど!」
彼女はすぐに糸田の横を通り過ぎて興本の前まで駆け寄ってきた。自然に興本の腕に触れる彼女の指は綺麗にネイリングされて、女性らしい細い指を煌びやかに飾っていた。
「早矢香こそ、なんでここに?」
当時と変わらず美人な彼女は、けれど以前よりも随分と大人びた印象を受けた。金髪に近かった髪は茶色く落ち着き、目元は柔らかなブラウンのアイシャドウに口元はぷっくりと見せるピンクのグロスが塗られている。長く伸びた髪から見える耳にはいくつものピアスが見えたが、俺が知っているよりも随分と数は減っていた。
「あたしはこれからデートだよ。今の彼は大学の同級生なの」
「早矢香、大学行ってんだ?」
「そうだよ~。めっちゃ勉強したんだから! 匠真は今年受験生でしょ。頑張ってね! って、あたしより全然頭良いから余計な応援かもだけど」
腕を掴まれたままの興本はその手を振り払うこともなく彼女の言葉に付き合っている。
俺は隣でそんな二人のやり取りを見ながら、チリチリと胸が痛むのを自覚してしまった。
「…なあ、あれ誰?」
控えめに俺に尋ねてきた宗田に俺は小さな声で答えた。
「サヤカさんは興本の元カノだよ」
俺が興本と出会った時に付き合っていた、2つ年上のカノジョだった。
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