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Wデート -10-
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そこはゲームセンターやボーリングや卓球なども遊べる総合施設で、小さな子供から年配の人までが集まって賑わっていた。
「興本がスポーツするの初めて見る」
運動神経が悪いとは思わないけれど、実際に見るのはこれが初めてだ。学校が同じになったこともないから体育の様子も知らないのだ。初めて見る興本の姿に少しだけ鼓動が高鳴る。
「興本は野球やったことあんの?」
糸田も隣のバッターボックスに立ちつつ、興味津々に興本の方を気にしている。
「授業で少しやったくらい」
言いながら興本は、体を回してバットを振る。軽く振っただけでも打ちそうな雰囲気を出すのはどういうことだろう。
同じく素振りをした糸田は流石の野球部らしく、様になっていた。
赤いランプが点いて、糸田と興本が同時構える。ガコンッと落ちる音がして、勢いよくボールが飛び出してくる。音を立てて体を振りきった興本のバットは、気持ちの良い音を立ててボールを宙へと放った。
興本が打ったボールは天井のネットに当たって地面へと落ちた。
「おお~! 糸田も興本も上手いな」
隣を見れば糸田もきっちり当てたらしく、宗田が「すごい!すごい!」とはしゃいでいる。
そして糸田は全てのボールを打ち返し、興本は1球だけ外れただけで、残りは全てヒットかホームラン級の強打で打ち返していた。
「糸田すげーな。やっぱ現役は違うわ! 140キロでも行けてたんじゃね?」
ボックスから出てきた糸田に宗田が興奮しながら声をかける。少し汗を拭う仕草をする糸田は爽やかに笑う。坊主頭の野球部がモテるのはこういうことかと一瞬だけ思った。
「いや、俺は何とかって感じ。それより部活してないのに力でねじ伏せる興本の方がすごいよ」
自分は謙遜して興本を褒める糸田はむしろ男らしい。
褒められた興本は意に介した様子もなく、汗を拭う仕草すら見せず、次はお前だろとばかりに金網の扉を開けてくれた。
「興本の後はやりずらいなぁ…」
「誰もお前に期待してないから、楽しめばいいよ」
ボックスに立つ俺に興本が声をかけてくれるが、それは励ましてくれているつもりなのだろうか。
「よぉし! 俺も糸田に良いところ見せるぞ~!」
そう言って並ぶ宗田はやる気に満ち溢れ、素人の俺でも肩に力が入っているのが分かる。
果たして、俺と宗田の結果は言うまでもない。
久しぶりに思い切り体を動かしたおかげで、既に腰が痛い。
アミューズメント施設を出る頃にはすっかり日が暮れていた。
「面白かった~! また来ような!」
腕を伸ばしながら宗田が言い、糸田もそれに頷く。俺も本当に楽しかった。
「今度はちゃんと打ち方教えてよ」
「おう。宗田は飲みこみいいから、すぐに打てるようになるよ」
早速次の約束を取り付ける宗田はとても嬉しそうだ。
「俺はもう良いかな。球技は向いてないんだ」
成績が一番悪かった俺は地味に落ち込んでいる。楽しかったけど、宗田のようにすぐに上手くなれる気がしない。
「井瀬は今のままで良いよ」
興本が慰めるように頭を撫でてくれるが、馬鹿にされているようにしか思えない。怖くてそんなことは言えないけど。
「今からどっか寄って飯でも食う?」
良い感じに運動をしたせいで小腹も空いてきた。宗田の問いかけに、そうだなぁと俺が考えていれば、興本が俺の手を取った。
「俺たちはここで別れる。二人で飯食って来いよ」
「あ、そう?」
「二人とも予定あったのか」
日が落ちているとはいえそんなに遅い時間でもなく、家に帰るには少し早いということもあって不思議そうにする宗田と糸田に、俺も同じく首を傾げて興本を見た。このあとの予定なんて俺も聞いていない。
「井瀬まで何見てんの。野暮なこと聞くなよな」
そう言って興本は悪戯っぽく俺の頬に口づけた。
「デートの最後は決まってんだろ?」
耳元で囁かれ、漸く俺は察したのだが。
それは目の前で見ていた糸田と宗田も同じだったようだ。顔を赤くした糸田に、宗田もどこか緊張した様子でいる。
「じゃあな」
「あ、ああ。また明日な、井瀬」
「うん…」
さっさと歩き出す興本に肩を抱かれたまま、俺は振り返って二人と別れたのだった。
「糸田はともかく、宗田はあれで大丈夫なのかな」
遠ざかる二人を見た後、思わずそんなことを思ってしまう。宗田はデートのつもりでいただろうけれど、糸田はそうじゃない。普通に友達と遊んでいたところで急に雰囲気を変えられて戸惑っているはずだ。
「さあな。どうでもいい」
「どうでもいいって…。今日は宗田の為に付き合ってくれたんじゃ」
「それよりお前は楽しかったのか?」
「俺?」
急に自分の方へ話を向けられて驚いたが、俺の感想は勿論一択だ。
「楽しかったよ。興本とこうやって遊びに出掛けるの、初めてじゃん」
二人で海や公園へ行ったことは一度あったけど、興本と映画やアミューズメント施設に行ったことはなかった。
自然を緩む顔を興本に見せれば、僅かに興本の表情も柔らかくなった気がした。
「だったら良い」
そう言って興本は俺の顔を少し見てから、褒めるようにくしゃくしゃと俺の髪を掻き混ぜた。
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